2012年10月01日

日本の高齢者の幸福感が高くないのは、お金を使うことに幸せを感じないためか?

北村 智紀

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先進国では経済的な豊かさを表す国内総生産(GDP)が成長したにも関わらず、人々の幸福感が高まっていないと言われている。そこで、幸福感はどのような要因で決まるか研究が行われている。

世界的な研究では、若いうちは年齢が上がるにつれ幸福感が低下し、40~50歳程度で最も幸福感が低くなり、高齢になると再び上昇すると言われている。一方、日本では高齢者の幸福感はそれほど高まらないという研究もある。

それでは、日本の高齢者の幸福感は何に左右されているのだろうか。経済学ではお金を使うこと(消費)により、幸福感が得られる(効用が高まる)としているので、旅行や趣味などを含めて消費水準が高い人ほど幸福なのだろうか。これに対して、幸せはお金では買えないとも言われるが、本当にそうなのだろうか。そこで、筆者らの研究グループでは、高齢者の幸福感の源泉について研究を行った。

この研究は途中段階ではあるが、現状で得られている結論は以下のとおりである。高齢者の幸福感と旅行や趣味などを含めた消費支出との関連性は低い。受け取る年金額と幸福感との関連性も低い。一方で、保有する金融資産額が多くなるほど、幸福感も高まるというものである。

この結果をどのように解釈すべきであろうか。一つの考え方としては、年金などの定期的な収入を得ることや、日常の生活費や日常の範囲で行われる旅行や趣味にお金を使うことは、それらが日常的であるがゆえに、お金を受け取る・使う楽しみに慣れてしまい、幸福感につながらないのであろう。あるいは、倹約・節約が美徳とされたため、お金を使ってしまうことを幸せと感じない可能性もある。

これに対して、金融資産を多額に保有していることは、将来、病気になった場合や介護が必要になった場合などの不測の事態に備えることができ、生活の安定性が増していることで幸福感を高めていると言える。別の考え方としては、お金を持っているということは、(実際に使うかは別として)何か非日常的なことにこれからお金を使うことが可能だということを意味しており、将来にお金を使える楽しみが幸福感の源泉になっている可能性がある。

そもそも「幸福感」は、ゆとり、安らぎ、家族を思う気持ちなどに関連し、お金を使うことに関連させるべきでない概念なのかもしれない。それならば、幸せはお金では買えないという言葉があてはまる。実際、筆者らの行った研究では、幸福感は消費支出と関係なかったが、「人生への満足感」では消費支出が多いほど満足感が高まる傾向があった。つまり、幸福感と人生への満足感は異なるものであり、幸福感はより高尚な概念であり、人生への満足感は現実的な概念ということになろう。

それでは、現役世代にとっては、退職後の幸福感や満足感を高めるにはどのように備えればいいだろうか。退職後にお金がなければ、生活の不安定性から幸福感を高められない。また、現役世代は今の高齢者世代よりもお金を使う喜びを感じやすいかもしれないが、そもそも、お金がなければ使う喜びを感じることができず、満足感も高められない。この研究結果から言えることは、現役時代にライフプランを適切に練って、退職後に備えた金融資産を十分に蓄積することが、幸福感・満足感につながると言えよう。

また、年金額の多寡が幸福感に関連性がなかったからと言って、年金保険料を納めなくても構わないということにはならない。なぜなら、現在の高齢者の多くは年金保険料をきちんと納めてきた人たちであり、未納によって年金が減額され幸福感が低下する人は多くないからである。近年、現役世代では未納者が多いことが問題となっているが、彼らの退職後の幸福感に年金額が影響しないとは言い切れない。やはり、お金が重要ということか。

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