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- 成熟都市の品格-東京駅復原にみる都市成長戦略
首都・東京の玄関口であるJR東京駅復原工事*が完了した。国の重要文化財にも指定されている東京駅丸の内駅舎は、辰野金吾の設計により1914(大正3)年に建設されたが、1945(昭和20)年の戦災で南北ふたつのドームと3階部分が焼失した。その後、新たに八角形の屋根が掛けられ、2階建て(一部3階建て)の姿が「赤レンガの駅舎」として今日まで親しまれてきたのである。
これまでも何度か創建当初の姿に復元する話が持ち上がったが、2007年にようやく着工することとなり、今年10月1日にグランドオープンする。今回の工事は、創建当初の南北ドームや3階建て駅舎への復元とともに、新たに駅舎全体を支える免震構造の基礎を地下に作る非常に大掛かりなものである。数々の文芸作品に登場する駅舎内にあった東京ステーションホテルも10月に新たに開業の予定だ。
新駅舎の試験的なライトアップも始まった。駅前広場を超高層ビルが取り囲むなかで、皇居外苑につながる行幸通りから見える長く水平に伸びた壮麗な外観は、まさに首都・東京の風格を体現している。パリやロンドン、ニューヨークなど欧米の主要都市には、必ずと言っていいほどその都市の顔となる鉄道駅舎があり、その都市の歴史と文化を象徴する場となっているのである。
これまで東京の魅力のひとつは成長の活力を示す雑然とした様相だといわれてきたが、日本も成熟社会となり大人の風格が求められている。新規のインフラ投資に比べ優れた都市景観の復元などは地味な作業だが、日本の経済成長も単なる量的拡大からその質が問われる時代を迎えているのだ。
アメリカ・ボストン市のビッグディッグ・プロジェクトは、都心部とウォーターフロントの分断を解消するために、高速道路の地下化と地上の公園化を15年以上の歳月を掛けて実現した。また、韓国・ソウル市の中心部を流れる清渓川(チョンゲチョン)の復元は、高速道路の撤去、水質の改善、人間中心の岸辺親水空間の整備などにより、多くの人の賑わいを取り戻すことに成功した。
東京都は2020年夏のオリンピック招致都市に立候補している。1964(昭和39)年に開催された第18回東京オリンピックの時は、日本橋の上空を走る首都高速道路が日本の高度経済成長を象徴していたが、2020年の東京は世界に向けてどのような都市像をアピールするのだろう。それは重要文化財である日本橋を覆う高速道路が姿を消し、日本橋川の水辺空間が大勢の人で賑わう光景かも知れない。これまで開発中心だった首都・東京が東京駅復原工事などにより成熟都市の品格を備えることが、世界都市として東京がさらに発展するための都市成長戦略となるのではないだろうか。
* 形が無くなったものを一から作り直す「復元」ではなく、残っている部分を活かしながら原形に戻す「復原」の意(JR東日本旅客鉄道株式会社ホームページより)
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土堤内 昭雄
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(2012年10月01日「基礎研マンスリー」)
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