コラム
2012年08月27日

「生保」、その新たな課題~「セーフティネット」から「トランポリン」へ

社会研究部 主任研究員   土堤内 昭雄

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「生保」という言葉を聞いて、筆者を含めて「生命保険」を連想する人は多いだろうが、ここでいう「生保」とは「生活保護」のことである。私は厚生労働省のある審議会の委員を務めているが、この会議で「セイホ」という言葉を聞いて、それが「生活保護」を意味するとはすぐに気づかなかった。しかし、最近では、高収入の芸能人の母親が生活保護費を受給していたことが社会問題になったこともあり、「生活保護」としての「セイホ」についても多くの人の関心が集まるようになっている。

現在の生活保護制度は、国民の健康で文化的な最低限度の生活を保障する憲法25条の「生存権」の理念に基づいて、1950(昭和25)年にできたものだ。戦後の混乱期には生活困窮者が多く、200万人以上の生活保護受給者が存在したが、その後の経済成長とともに減少し、95年度に最小を記録した。しかし、それ以降は急激な増加傾向が続き、今年6月に厚生労働省が発表した2011年度の生活保護受給者(月平均)は206万人を超えて戦後最大となったのである。

このように生活保護受給者が増加する理由としては、高齢化の進展により稼働能力の低い「高齢者世帯」が増加していることがある一方、稼働能力があると思われる「その他の世帯」の受給者が08年度から急激に増加していることが挙げられる*。「保護開始の主な理由」をみると、08年以前は「傷病による」が最も多かったが、それ以降は「働きによる収入の減少・喪失」が最大になっている。つまりこれまでは傷病等により働くことに支障が生じて生活保護を受けていたのが、リーマンショック以降は失業などにより働けるにもかかわらず生活保護を受ける人が増加しているのだ。

その背景には、雇用保険の失業給付を受けられない非正規雇用者が増加し、失業が直ちに生活保護へ陥る可能性が高いことがある。本来、失業者のセーフティネットは雇用保険と生活保護の二重構造になっているのだが、非正規雇用者の増加は一方のセーフティネットの喪失を意味する。今後は将来の潜在的生活保護受給者を抑制するためにも非正規雇用者への社会保険の適用拡大が求められる。

また、生活保護からの脱却を図るために特に稼動能力のある人の就労支援が重要だ。これまでも国では「福祉から雇用へ」を目標に、すべての自治体で生活保護受給者等就労支援事業を実施し、11年10月からは求職者支援制度を設けて雇用保険を受給できない人も職業訓練を受けられるようになった。このように生活保護制度は、経済的に困窮した人を受け止める「セーフティネット機能」に加え、その人たちを元の社会へ復帰させる「トランポリン機能」の強化が一層重要になってきているのである。


 
 *  生活保護を受給する世帯類型には、「高齢者世帯」「母子世帯」「傷病・障害者世帯」「その他の世帯」がある。
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社会研究部   主任研究員

土堤内 昭雄 (どてうち あきお)

研究・専門分野
少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画

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