コラム
2012年08月23日

消費生活における弱者は誰か~消費トラブルの多寡から考える消費者教育の重要性~

生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー   井上 智紀

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今月10日、衆議院本会議で「消費者教育の推進に関する法律1」が成立した。筆者は法律は専門外であるため内容の詳細は別に譲るが、多様な商品・サービスが提供されている昨今の社会において、売り手と買い手の間での無用なトラブルを避けるためには、消費者の側にも一定の知識が必要であり、公表されている概要をみる限りにおいては、消費者の知識習得のための環境整備を教育機関や行政に義務付けている点で、意義は大きいといえるだろう。

この環境整備に向けた義務付けの主体および想定される対象はそれぞれ図表1の通りとなっており、第11条および第12条では、教育機関に対して、学生に向けた消費者教育の実施を、第13条では、行政(特に地方行政)に対して、高齢者・障害者支援に携わる者に向けた研修・情報提供を求めている。独立した消費者としての生活に入る前の学生時代に、消費者としての様々な知識を段階的に習得していくことは、当人のみならず社会全体にとっても大きな価値があるといえよう。また、高齢者や障害者が消費生活の中で被害に遭うことを未然に防いでいく上で、彼らの生活を支える専門職等が正しい知識を身につけることは、社会的要請に応えるものとなっているといえるのではないだろうか。

環境整備の主体および想定される対象

ところで、国民生活センターが公開している消費生活相談データベース(PIO-NET)を用いて、2009年度から2011年度の3年間について相談件数を契約当事者の年齢階層別に比較してみると、相談件数自体は30~40歳代が多かったが、70歳以上が毎年増加しており、2011年度では最も多くなっている(図表2)。一方で人口1万人あたりの相談件数でみると、いずれの年度においても30~40歳代は他の年代よりも多い。

契約当事者の年齢別相談件数

もちろん、消費生活センターに寄せられる相談のすべてが、消費者の知識不足に原因の一端を求められる事例ではないだろう。また、商品・サービスや事業者に対する疑問や苦情を消費生活センターなどの専門機関に相談できること自体が、逆に消費者力の高さを表しているとみることもできよう。しかし、30~40歳代の相談件数の多さは、この世代においても消費者としての知識や経験不足に起因する消費トラブルが少なくないことを示しているのではないだろうか。

ところが、このような状況に対し前述の法律では、社会人になって以降、高齢期に入るまでの期間については、消費者団体の自主的活動、および事業者による消費生活の知識の提供や従業員研修などが、それぞれ努力義務として規定されているのみである。

消費者力の向上には、何らかの手段で知識を習得するか、失敗を含めて様々な消費経験を積み重ねていくしかないが、高齢層に比べても遜色ない規模で消費トラブルを抱えるこれらの世代に対して、単に自主的あるいは事業者の努力に依存して後は自己責任で、というのではない、何らかの取組みが必要なのではないだろうか。






 
1 法律の概要、条文等については消費者庁(http://www.caa.go.jp/)参照のこと

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生活研究部   シニアマーケティングリサーチャー

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

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