コラム
2012年08月20日

少子化でも拡大?-子どもの高等教育マーケット

生活研究部 主任研究員   久我 尚子

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8月も下旬に入り、うだるような暑さがつづいた夏も終わりに近づいている。

日本では夏から秋にかけて出産が増える傾向がある。そういえば夏になると、街中でおなかの大きな女性をよく見かけるような気もするが、それは筆者も真夏に出産を経験しているからだろう。そんな錯覚めいた印象に加えて、休日になると子どもを連れて、やはり子どもがたくさんいる公園や娯楽施設へと出かけていくため、子どもを目にする機会がとても多く、本当に少子化?という気分になる。しかし、日本では確実に少子化が進行している。

厚生労働省によると2011年の合計特殊出生率は1.39で横ばい、出生数は過去最少であったii 。出生率が変わらないにも関わらず、出生数が減少した理由は、母親の多くを占める現在の20代~30代前半の世代は、第二次ベビーブーム以降、少子化が進行した世代であり、母親自体の人口が減少しているためである。

子どもの数が減少している一方、大学や短大の進学者数は、進学率の上昇によって一昔前より増えている。1980年と2011年を比べると、18歳人口が8割弱に減少しているにも関わらず、大学・短大進学者数は1.2倍に増えている(図1)。人口の多寡に影響を受けやすい多くの産業では、少子高齢化による人口減少により、すでにマーケット規模が縮小しはじめているが、大学をはじめとした高等教育マーケットでは、現在のところ大きな影響はみられないようだ。

また、大学と短大の進学率を男女別にみると、男性では2011年の進学率は前年より若干低下しているが、女性ではまだ上昇が続いている(図2)。女性では1995年を境に大学進学率が短大進学率を上回っているが、1995年はマイクロソフト社のWindows95が発売されてオフィスのIT化が進んだ時期である。つまり、従来、女性を中心とした事務職が担当していた業務がITに代替され始めた時期ともいえる。さらに、1999年には男女雇用機会均等法が改正され、「看護婦」を「看護師」と表現するなど、性別的に中立な表現で職種を募集することが定められた。職業上の性差が薄まると、職に就く前段階である高等教育の場の選択にも影響を与える。すでに現在では男女同等の選択肢を持つことは一般的であり、女性の大学進学率は今後さらに男性に迫っていくだろう。また、男性を含めた大学・短大全体の進学率も、18歳人口の過半数をやっと超えたところとみると、まだまだ高等教育マーケットは拡大の余地があるようにみえる。

いずれのマーケットでもマーケットの将来を語る際、人口規模のほか、費用面もみなくてはならない。日本政策金融公庫「平成23年度教育費負担の実態調査結果」によると、学校教育費のほか家庭教育費も含む在学費用が年収に占める割合は平均37.7%である(図3)。分布をみると、在学費用が年収の40%以上を占める世帯が最も多く、家計に対する教育費負担の大きさがうかがえる。また、同調査によると、高校入学から大学卒業までの費用(在学費用および進学費用の合計)は、子ども1人あたり平均1,042万円とのことだ。推移をみると、2000年~2006年の間は減少傾向にあったが、2007年に1千万円を超えた後、30万円程度の上下はありつつ1千万円台で推移しているiii。また、年収が高いほど子どもにかける教育費は多く、年収400万円以下の世帯と年収800万円以上の世帯では約200万円のひらきがある。

ところで、米経済学者のベッカーの出生についての経済学理論によるとiv,v、裕福な家計ほど、子どもの質を高めるために1人あたりの教育費が増え、子どもの数はかえって少なくなる。これが先進国、特に教育水準の高い国における出生率低下の背景との説もある。

昨今の日本の経済状況により、家計の教育費負担は厳しい状況が続くだろう。しかし、親は最後まで子どもの教育費は削らない。また、6ポケット、7ポケットといわれるように、少子化で絞られた子どもに対して祖父母や未婚のおじやおばが援助する構造もある。少子高齢・人口減少社会であっても、子どもの高等教育マーケットはまだ余力がある。一方で、より「質」が求められ、「付加価値」にも注目が集まるマーケットであり、人気が一極集中しやすい。高等教育マーケットで生き残っていくためには、企業のマーケティング活動で行われる以上の戦略と実行力を意識すべきだろう。



大学・短大進学者数と進学率の推移

性別にみた大学進学率および短大進学率の推移

在学費用の年収に対する割合



  ※ 本稿はBUAISO No.51(2012年8月発行) プレパラート「少子化と子どもの高等教育マーケット」を加筆修正したものです。



 
 i  厚生労働省「人口動態統計月報」
 ii  厚生労働省「平成23年人口動態統計月報年計(概数)の概況」
 iii  株式会社日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査」「家計における教育費負担の実態調査」
 iv Becker, Gary S. (1960). “An Economic Analysis of Fertility”, in pp. 209-40 Demographic and Economic Change in Developed Countries, by National Bureau of Economic Research. Princeton, Princeton University Press.
 v Becker, Gary S. (1981). “A Treatise on the Family”. Cambridge, MA. Harvard University Press.

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生活研究部   主任研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング

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