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- デジタル時代のリテラシィ-昭和世代と平成世代の生活様式
先日の当社「研究員の眼」に若者の基礎的能力(リテラシィ)について面白い体験談が紹介されている1)。その概要は、『パン屋で440円の買い物をして500円玉と40円を出したところ、レジの高校生と思しきアルバイトの人が「40円はいりません」と言い、それを聞いた隣のレジの中年女性が「お釣りを100円玉で欲しいということよ」と彼女に説明してくれた』というのである。このようなことはわれわれが日常茶飯事に行うことだが、そこには基礎的な計算能力と理解力が必要であり、今日の日本社会ではそれらを養う教育に問題が生じているのではないかとの懸念がここで示されている。
この話を読んで、私がもう何年も前に旅先のアメリカで同様の経験をしたことを思い出した。私はドル紙幣でおつりをもらいたかったために支払額に端数の小銭を追加して支払った。私が出した小銭はそのまま突き返され、たくさんのコインと商品が手渡されたのは言うまでもない。店員にしてみれば、きっとお金の数え方に不案内な外国人旅行客と思ったことだろう。私の意図は店員には全く理解されず、私は『日本ならこの程度のリテラシィはあるのに』と思ったものだ。
しかし、後になってそれは本当に店員の計算能力や理解力の不足によるものだろうかと疑問が湧いてきた。そもそもアメリカでは小額の買い物でもクレジットカードを使用するため、面倒な計算や小銭の交換をしてまでつり銭を減らす必要はないだろう。また、おつりを財布に入れるのなら、かさばらないように紙幣に替えたりしてコインを減らしたいと思うかもしれないが、彼らはお金を無造作にポケットに突っ込んでいる。これはリテラシィ不足というよりも、そもそも生活様式の違いからくるのではないだろうかと・・・。
日本においても、コンビニでの買い物や自動販売機の利用には電子マネーを使う機会が増えている。また、日常の買い物にもクレジットカード払いが普及し、日常生活で小銭を使う機会が急速に減少しているのである。そうだとすれば平成世代の若い人たちが、『100円玉でおつりが欲しい』という昭和世代のニーズを理解できなくても不思議ではない。確かに日本のリテラシィ教育における課題もあろうが、一方で日本でのおつりの出し方も若者のリテラシィの問題ではなく生活様式の変化によるのではないかと思えるのだ。昭和世代が何気なく使う「テレビのチャンネルをまわす」という表現が平成世代には通じないように、今日の生活様式は大きく変わっている。昭和世代がデジタル時代のちょっとした変化を理解する力も、また現代社会における重要なリテラシィと言えるのではないだろうか。
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2012年07月30日「研究員の眼」)
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