コラム
2012年07月11日

認知症ケアサポートチームが支える「希望」-「今後の認知症施策の方向性」に寄せて(1)

  山梨 恵子

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2012年6月18日、厚生労働省認知症施策検討プロジェクトチーム(主査:藤田厚生労働大臣政務官)は、「今後の認知症施策の方向性について」を公表した。過去十年の認知症施策を再検証し、今後目指すべき基本方針とそれを実現するための認知症施策の方向性を7つの視点から描いたものである。


具体的な対応方策【7つの視点からの取組】


「認知症になっても本人の意思が尊重され、出来る限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」を目指そうという基本方針は、これまでの認知症ケアの歩みをそのまま後押しするものだ。示された7つの視点は、今後、各地域が本格的に取り組んでいく地域包括ケアシステムの構築に向けて、より具体的な認知症施策を進めていくための青写真とも見てとれる。これまで、医療、介護、行政等がそれぞれに取り組んできた試行錯誤の動きを1つの方向に向け、目的意識を共にする絶好の機会にしていくこともできるだろう。
   さて、この報告書の中で特に注目を集めているのは「認知症初期集中支援チーム(以下集中支援チーム)」の設置や「身近型認知症疾患医療センター(以下身近型医療センター)」の整備といった新たな施策であると思われる。これらは、早期診断の促進を図るとともに、個別ケースへの早期介入や対応を行うことでより良い生活環境を維持し、行動・心理症状等の予防につなげながら、住み慣れた地域での継続的な暮らしを支えていくための中枢を担う機能と考えられる。公的サービスが普及したとはいえ、認知症の人のほとんどは不安を抱えながら在宅で暮らしている。長丁場になる在宅介護を続けていく上では、本人や家族がより早い段階で病気への理解を深めることが重要である。専門職にいつでもサポートしてもらえる体制ができれば、その後の暮らしの大きな安心感になることは間違いない。認知症と共に生きる人にとっては、状態変化に応じて起きてくる暮らしの中の些細な困りごとを取り除いていくことが、症状の悪化を食い止めることにもつながっていくからだ。描かれた施策を机上論に終わらせないためにも、これらの体制づくりや役割を担う人材育成について実践力を伴うものに仕上げていく必要があるだろう。

ところで、今回登場した「認知症初期集中支援チーム」は、イギリスモデルを参考例に取り上げられているが、日本全国を見渡してみると、既にこれと同じようなしくみを作って動き出している地域もある。例えば、筆者が足繁く通っている福岡県大牟田市では、大牟田市独自の人材育成プログラムで育てた認知症コーディネーターと地域包括ケアセンターなどが連携し、「地域認知症ケアサポートチーム」を立ち上げている。このチームは、認知症予防教室や民生委員の活動、介護サービスや医療関係者とのネットワークなど市内のあちらこちらに張りめぐらされたアンテナを使って、認知症のより早い段階で生活環境を整えたり、医療や介護のバックアップ体制につなげたりしていく。また、困難事例に対するカンファレンスも重要な役割の1つである。専門職と行政とがタッグを組んだ動きは、スピード感と、力強さと、温かさに溢れている。
   特徴的なのは、サポートチームの活動と全ての認知症施策とが密接に連動していることだ。認知症の人が日々体験する悩みや困りごとは、既存の訪問介護や通所介護のサービスだけで解消していくことは難しい。「認知症なんでも相談室」、「ほっと安心ネットワーク」、「若年性認知症当事者の会の『ぼやき』、「つぶやき、元気になる会』」、「家族定例会の『つどい、語らう会』」、「野外活動のウォーキングや山登り」・・・。これらは、サポートチームが認知症の人やその家族と関わる中で生み出された新たな支援の形である。そこでは「サポートする人」と「サポートされる人」という関係ではなく、「人」と「人」との対等な関わりがある。そこに集えば誰かと必ずつながっていられる。仲間がいれば、支援があれば、認知症になってもいろいろな事が出来るという実感を持って生きていけるのだ。大牟田の認知症施策に関する運営会議の中で、メンバーの誰かが言った。「認知症ケアは、認知症の人自身が『生きていく希望』を見つける支援だと思う・・」と。

イギリスのモデル、大牟田のサポートチーム、そして大牟田がモデルにしたデンマークの高齢者精神医療班(参照「デンマークの認知症ケアシステムに学ぶ」http://www.nli-research.co.jp/report/report/2009/02/repo1002-2.pdf)も、その基盤に徹底した専門職教育があることは共通点と言えるだろう。その教育の根底には、認知症になっても一人の“人”として尊重し、その人の個性や人生を重んじようとする「パーソン・センタード・ケア」のゆるぎない理念が存在する。また、パーソン・センタード・ケアを実践に結びつける上では「認知症の人の自己決定支援」が極めて重要であることから、イギリスでは「意思決定能力法」に基づくケアが提供されているし、大牟田の2年間に及ぶ認知症コーディネーター研修の中にもしっかりと取り込まれている。冒頭のプロジェクト報告書に示された「認知症初期集中支援チーム」を机上論とさせないためには、こうした基本原則や理念を心得た人材をいかに起用し、実践に結び付けていくかという事がカギになるのではないか。

 
 

 
進藤由美,ニッセイ基礎研究所,研究員の眼『 認知症の人の意思決定における「次元」』2012年7月11日

山梨 恵子

研究・専門分野

(2012年07月11日「研究員の眼」)

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