コラム
2012年07月02日

缶ビールが3割引?-あらためて証券化商品の意義を考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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フローズン状の泡を作る機械が貰えるキャンペーンをご存知だろうか?缶ビールに添付されている応募シールを96枚集めると、もれなく貰えるというものである。フローズン状の泡の食感が楽しめるだけでなく、その泡がふたの役目をすることで、ビールの飲みごろの冷たさを30分間も楽しむことが可能らしい。節電の夏に涼をもたらす素晴らしい商品・キャンペーンだと思うのは呑兵衛の発想か。

何人かで協力すれば96本消費することも不可能ではないので、さっそくビールを買いだめしようと目論んでいたところ、あることに気がついた。インターネット上のオークションサイトで、応募シール96枚が売買されているのだ。しかも1件2件ではなく多数出品されている上、中には6,000円近くまで価格が釣りあがっているものもあった。仮に350ml缶24本入りケースが4,600円だとすると、96本(4ケース)で18,400円。応募シール96枚が6,000円で転売できるのなら実質的な価格は96本で12,400円。缶ビールを3割引で購入できる計算になる。節電の夏をフローズンビールで乗り切ろうと盛り上がっていたのに、ビールが安く飲めるぞと別の意味で心躍る方も多いかもしれない。

そこへ水を差すような話になってしまうが、この応募シールからふと思い出したことがある。今から4年ほど前に証券化商品が諸悪の根源の如く報道されていたことだ。ワイドショーの世界では、「証券化商品を組成したところで債務者が返済不能に陥る本源的リスク(損失の可能性)は減少しないのに、減少するかのように説明し販売する詐欺同然の行為だ」といった批判があったと記憶している。

実際にどのように販売されていたかは知らないのでコメントできないが、少なくとも証券化商品の組成に携わっていた者の中にリスクが減少すると思っていた者は一人もいなかったのではないかと思う。理論的にはリスクを減らすのではなく、リスクを組み替えるといったほうが適切だからだ。例えるなら、それぞれリスクを2個保有している人100人を、リスクを1個保有する90人とリスクを11個保有する10人に組み替えるといった感じである。リスクの総数については変わらず200個のままである

リスクの総数が変わらないのに、何の意味があるのかと思うかもしれない。しかし、仮に90人が1万円払ってもリスクを半減したほうが得だと考え、残りの10人は逆にリスクが5.5倍になっても9万円貰えるほうが得だと考えるなら、リスクを組み替えることで皆の満足度が多少なりと増すことになる。

一方、実務者の集まりや関連学会では、「証券化商品の組成・販売を通じて、リスクを他者に移転するので貸し手の審査が甘くなる」、「証券化のプロセスを繰り返すことで、本源的なリスクの所在がわからなくなる」、「証券化商品の価格設定時のリスク評価において、同時期に複数の債務者が返済不能に陥ることに対する考慮が甘く、購入者に想定以上のリスク負担を強いることになった」など、数多くの問題点が指摘されていた。

どれもこれも正当な指摘であり、さまざまな点で問題があったこと、いずれも今後参考にすべき重要な問題であることに間違いない。その一方で、上述の通り組み替えること自体に意義がないかというと必ずしもそうではない。捉えがたいリスクが対象だとイメージが沸かないかもしれないが、実は缶ビールと応募シールの話と同じように考えることができる。

ビールは飲みたいがフローズン状の泡を作る機械には興味がないAさんと、フローズン状の泡を作る機械は欲しいがビールでなく発泡酒や第3のビールで十分と考えるBさんを考える。応募シール付ビールを大量に購入し、ビールと応募シールに組み替えて販売する。するとAさんは安くビールが手に入り、Bさんはより高価なビールを買わずともフローズン状の泡を作る機械が手に入るという喜びが生まれる。この例を応募シール付ビールが個々の債権、ビール単体と応募シール単体が証券化商品だと考えればどうだろう。インターネット上のオークションで十分だと思うかもしれないが、それに馴染まない商品もある。こうして考えると、諸悪の根源の如く報道された証券化商品にも意義があることをご理解いただけるのではないだろうか?

最後に、これを読んでビールをまとめ買いし、シールを転売しようと思ったあなたに3つ忠告したい。まず、シールを転売する人が増えるほど応募シールの価格が低下するので6,000円で売れるとは限らない。次に、酒類小(卸)売業免許を受けていない者はビールを転売してはいけないので自分で消費する必要がある。最後に、ビールにも賞味期限があることをお忘れなく。


 
厳密には、リスクを2個保有している人を100人集めてくることで、リスク低減可能とも考えられるが、ここでは集めることではなく組み替えることに主眼を置いている。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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