コラム
2012年06月20日

育児休業制度利用の作法

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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人事担当の男性A氏「最近育児休業の取得が増えてきたのはうれしいんだけど、制度利用者が周囲に配慮しないケースだとか、復帰しないケースがポツポツ出てきてねぇ。ほんの一部でも、そういうケースが出るとやっぱり困っちゃうんだよね。」
   筆者「管理職が本人にビシッと言えばいいじゃない。」
   人事担当の男性A氏「『職場復帰は大丈夫だよね?』とか、『周囲の人にもうちょっと気を使ったほうがいいよ』とか管理職がいおうものなら、『権利なのに利用を快諾してくれなかった』とか思われるんじゃないかって心配で、ビシッと言うのもなかなか難しいのよ。」
   筆者「・・・・・」

というわけで、このようなタイトルで筆をとった次第である。以下、「育児休業制度利用の作法」(筆者が勝手に作成)を列挙することとしたい。
其の一:育児休業を取得予定であることは早目に管理職に伝える 
 • 育児休業法では、休業申請は原則として1ヶ月前までにすればよいことになっている。しかし、管理職が休業取得予定をある程度把握できていれば、その可能性も踏まえて異動構想を練ることができるし、補充要員などを前倒しで検討することも可能になる。
 • 休業申請は十分検討したうえで〆切前に行うにしても、検討や予定の段階から、休業取得について管理職とコミュニケーションをとっておくことは、休業中の職場メンバーの負担軽減につながるということを心に留めておいてほしい。
其の二:取得申請前に、出産(男性の場合は配偶者の出産)から職場復帰までのイメージを持つ 
 • 特に1人目の子どもの場合には、出産やその後の育児がどれほど大変か、その後問題なく復帰できるのか、なかなかイメージが湧かないだろう。しかしながら、育児休業は、「休業」というからには復帰を前提としている。育児休業取得経験者等の経験談や周辺の保育所情報など、可能な限り情報を収集し、復帰までのイメージを自分なりに持ったうえで、休業を取得するかどうか、取得する場合どれぐらいの期間取得するかを、真剣に考える必要がある。
 • 出産も育児も想定外が付き物で、自分が体調を崩すケース、子どもが看護を必要とするケースなど、どうしても予定通り職場復帰できない事情に遭遇することもあるかもしれない。しかしながら、「こんなに育児が大変だと思わなかったので」「子どもがかわいくて一緒にいたくなったので」といった理由で、「復帰するつもりでしたが、やはり退職します」というようなことになると、復帰を待って代替体制を組んでくれている職場に迷惑をかけるだけでなく、その後の育児休業取得環境にまで悪影響を及ぼしかねない。
其の三:休業前には仕事を抱え込まず、丁寧な引き継ぎを 
 • 休業後は職場に迷惑をかけるからと、ギリギリまで自分の仕事を抱え込む人がいるが、これはむしろ危険である。特に女性の場合は、妊娠直後から体調不良や入院のリスクが出てくるので、自分の仕事に関する情報を可能な限り共有化し、何かあった時の代替体制を早目に整えておく必要がある。そういう体制がないままに休暇や休業に入ってしまうと、かえって職場に迷惑をかけることになる。
其の四:職場への感謝の気持ちを忘れずに 
 • 育児休業は労働者の権利である。取得することに後ろめたさを感じる必要はない。しかしながら、休業にあたって職場のメンバーの支援を受けていることに、感謝しなくてよいというわけではない。
 • たとえ休業中に代替要員が補充されたとしても、職場のメンバーに何らかの負担が生じる可能性は高い。制度利用に対して理解がある職場であったとしても、制度利用者からの感謝の気持ちが周囲に伝わらなければ、制度利用に対する不満が顕在化してくる懸念が大きい。
其の五:復帰後に「子どもがいるから」を理由にするのは最後の手段 
 • 育児が始まると生活が一変し、全てが子ども中心になる時期がしばらく続く。そういうなかで、意識までもが自分と子ども中心になり、周囲が自分をどう見ているかに思い及ばなくなるケースがある。
 • 子どもがいるからといって、たとえば「出張は一切できません」とか「土日のシフトには一切入れません」と頭ごなしに言われると、休業中踏ん張ってくれた職場のメンバーにしてみれば、心中穏やかでなくなるのではないか。皆と同じように負担を担うのが難しくても、家族や外部サービスの手を借りて、一部でも職場の負担をシェアしようという意識を持つことは重要だ。
 • 職場のメンバーに対しても、仕事上の顧客に対しても、「子どもがいるから」は原則としてエクスキューズにならない。そう肝に銘じていても、子どもの急な病気などで周囲に迷惑をかける局面は必ず出てくる。「子どもがいるから」という言葉は普段は自分の胸に秘め、本当にやむを得ない時に使うよう、大事に残しておいたほうがよい。

上述の「育児休業制度利用の作法」は、筆者自身の失敗や反省も踏まえたものである。長女の出産のときは、パンパンに仕事を抱えたうえでの突然の切迫流産による入院で、当時の管理職や職場のメンバーに大きな迷惑をかけた。次女が0歳の時には、喘息で何度も入院し、退院後も1日4~5回、自宅の携帯用吸入器で吸入をする必要があった。何社ものベビーシッター会社に吸入をともなうシッティングを依頼したものの全て断られ、やっと1社、対応を快諾してくれた会社にめぐり会ったのは職場復帰の3日前だった。
   筆者の失敗や反省が結実した「作法」には何の拘束力もないが、振り返るべき制度の歴史と、思いやるべき制度の未来が、「作法」を守るインセンティブになり得るのではないか。
   どんな制度にも、歴史があり、未来がある。育児休業がなかった時代の働く母親達の苦労の歴史、育児休業制度の創設・改善に尽力してきた人達の努力の歴史を経て、今の育児休業制度がある。苦労と努力の末に生まれ育ったこの制度が、労働者が必要な時に安心して利用できる、企業が労働者の意欲や生産性の向上といったメリットを実感できる、といった未来の好循環につながっていくように、制度利用者のかたがたにも、「作法」を守ったうえでの制度利用を心がけて頂きたい。

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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

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