コラム
2012年06月19日

AIJ社長ら逮捕を受けて-金融詐欺に騙されないために気をつけるべきこと

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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本日、年金の運用資金1,500億円が消失した事件でAIJ投資顧問の浅川社長ら4人が逮捕された。逮捕容疑は虚偽の運用実績を提示して顧客を勧誘した詐欺および金融商品取引法違反だ。浅川社長は国会の参考人質疑で「騙すつもりはなかった」と繰り返し答弁したが、当局は詐欺に当たると判断したようだ。

AIJ投資顧問は厚生年金基金等から運用資金を受託し、同社が運用する投資信託(ファンド)を通じてデリバティブなどに投資していたが、運用の失敗で抱えた損失を他のファンドに付け替えていた。損失を抱えたファンドを合算した全体では顧客から預かった資金の殆どが消えて無くなっていたにもかかわらず、顧客に提示するファンドだけは順調に運用できているように見せかけて、新たな顧客を勧誘していたとされる。

この手の詐欺に引っかからないためにはどうしたら良いのだろうか。資産運用ではリスク分散が重要だと言われるが、一般に言うリスク分散とは「株式と債券など値動きが異なる金融商品に分散して投資すること」を指す。こうすることで、例えば株式が値下がりしても債券の価格はあまり下がらない(または逆に値上がりする)など、運用資産全体の収益を安定化することができる。

しかし、これだけでは本質的なリスク分散にはならない。特に、AIJのような詐欺行為から身を守るには、思考(意思決定)を分散することに尽きると考える。具体的には、(1)複数の人間で検討する、(2)第三者の意見を聞く、(3)ある程度の時間をかけてよく考える、の3点が挙げられよう。

「(1)複数の人間で検討」したり、「(2)第三者の意見」を聞けば、異なる知識や経験に基づいて、より適切な判断ができる可能性が高くなることは容易に想像できよう。文字通り“三人寄れば文殊の知恵”だ。一方、「(3)時間をかけてよく考える」は見落とされがちかも知れない。オレオレ詐欺や過去の金融詐欺事件の多くは、「いますぐにお金を払わないと大変なことになりますよ」とか、「募集の上限に達したら購入できなくなりますよ」などと言って、お金を支払う側に時間を与えない点が共通している。誰かに相談したり冷静に考えさせないようにする、人間の心理を巧みに突いた手口と言えよう。

AIJ投資顧問の被害に遭った年金基金の中には、少数の人間(または事実上一人)で検討せざるを得なかったり、勧誘を受けてから1~2週間でファンド購入を強いられた基金が少なくないと聞く。意味もなく時間をかけることは無駄だが、「一晩寝たら考えが変わるかもしれない」、「今日と比べて1ヵ月後には検討するための情報量が格段に増えるだろう」と思うなら、ファンド購入を急ぐ理由はないのではないか。購入を遅らせた結果、投資するチャンスを逸する(機会損失を招く)ことはあっても元本は失わないし、多くの(真面目な)運用会社が凌ぎを削っている今の時代、また投資機会は巡ってくるだろう。それよりも、勧誘されるがままに詐欺行為に騙されてしまったお金は、まず戻ってこないことを肝に銘じておきたい。

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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本ファイナンス学会理事
     ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

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