コラム
2012年06月01日

「ヒートテック」と「どん兵衛」、そして仕組み債― 価格の問題、嗜好の問題、知っている事と判断できる事 ―

金融研究部 准主任研究員   高岡 和佳子

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少し季節外れの話だが、ここのところ、秋口になると毎年ユニクロの「ヒートテック」を数枚購入している。購入時は決まって「こちら全てLサイズになりますがよろしいですか?」と販売員が親切に訊ねてくれる。以前は「私がM、ましてやSを着られる訳がないでしょ。」と突っ込みたくなることもしばしばだった。しかし、マニュアルに則って対応している相手を困らせるだけなので、今では「大丈夫です」とだけ答えている。

話は変わるが、日清の「どん兵衛」のつゆが販売地域によって異なることをご存知だろうか?これは東西で嗜好が異なることへの対応である。関西で生まれ育ち、関東で暮らしている私としては、地域で販売商品を替えず全国で両商品を販売していただき、どちらの商品を買うか消費者が選択できるほうがありがたい。しかし、仮に全国で東西の「どん兵衛」が共に販売されるなら、ユニクロさながら「こちら全て東(西)日本向けの商品ですがよろしいですか?」と確認されるのだろうか。となると、流通や在庫の効率性も然ることながら、現行の販売方法で十分な大多数の方々に購入時の負担を掛けることになるので、やはり現行の販売方法が最善な気もする。私のような一部の人間は、実家から送って貰うなり、帰省時に買い込むなり、対応策はいくらでもあるのだ。

再び話が変わるが、先日たまたま手に取った書物に仕組み債に関する記述があった。そこには仕組み債について「多大な損失を被るリスクを負う見返りとしてわずかな利子しか貰えず割に合わない」と記してあった。確かに、多大な損失を被るリスクを負う見返りとして多少高めの利子を貰う仕組みに違いないが、経済的に引き合うかどうか(割に合うかどうか)と商品の仕組みとは別問題である。たとえわずかな利子であってもそれが適正であれば、割に合わないとは言えない。

私がこう考えるようになったきっかけは、ほんの数ヶ月前に販売されていた数種類の仕組み債だ。こうしたものに出会うと、ついつい仕事柄か価格評価を試みてしまうのだが、この時は絶妙な条件設定に舌を巻いた。価格の評価手法を大まかに説明すると、商品に含まれるリスクに対して付与されるべき価格を、同様のリスクを含む商品の取引価格から導く、といった感じだ。私の試算では、同様のリスクを含む商品を購入している人にとって、条件に応じた適切な価格が設定されていたのだ。

では、私は購入したのか。条件に応じた適切な価格設定であっても、私はいずれの仕組み債も購入していない。そもそも投資資金もないのだが、仮に臨時収入があったとしても購入しなかっただろう。価格が適切かどうかではなく、私の嗜好や身の丈に合わないのが理由だ。その商品で多大な損失を被る状況は、数年後の株価水準が現時点の半分になるような時だ。その時投資資金100万円に対し50万円程度の損失を被ることになる。このような状況に陥った時、我が家のスズメの涙ほどの保有株式の価値も下がるだけでなく、不況期には世帯収入の低下だって見込まれる。ダブルパンチを食らうのは好まないし、その程度のパンチなら痛くも痒くもないほど金持ちでもない。

一方、この商品が株価水準ではなく為替水準に依存するタイプ、例えば外貨の価値が現時点の半分になるような円高局面で50万円程度の損失を被るというものなら、私の判断も変わるかもしれない。海外旅行が好きな私にとっては50万円の損失を被る状況でも、海外旅行が今より安く行けるならば、総合的には大した痛手ではないと判断できなくもない。同様の商品であっても、個人の置かれている状況によって評価が異なるのだ。そして何よりも不況期や円高局面で世帯収入が上昇しやすい家庭もあれば、お金が有り余っている家庭があることを忘れてはいけない。

こう考えてみると嗜好や身の丈が異なる人の存在を無視し、自分の嗜好に合わないからという理由で割に合わないと言うのはどうだろうか。「どん兵衛」の話に擬えるなら、東日本向け商品を好む人が適正価格だと判断し購入しているのに対し、西日本向け商品のほうが自分の口に合うからという理由で「東日本向け商品は割高だ」と言っているようなものではないか。もちろん言うのは勝手だが、本質を間違えると決して問題は解決できない。問題は東日本向け商品の価格ではなく、自分の嗜好に合う商品を購入していないことにあるのだ。

適正価格であっても嗜好に合わない商品では十分な満足を得られないのだから、商品購入時には自分の嗜好にあった商品かよく確認することが重要となる。これは「どん兵衛」に限らず金融商品においても言えることだ。金融商品購入時には決まって「○○により投資元本を割り込むことがあります」と説明を受け、「承知しています」と同意するが、商品の特徴を知っているからといって嗜好に合うか判断できるとは限らない。「ヒートテック」の話に擬えるなら、購入商品のサイズを知っていることと、そのサイズが自分の体にフィットするかを判断できることは別なのだ。加えて、仮に販売員が体格(定量的情報)だけでなく、ゆったりとした着心地を好むなど顧客の嗜好も加味した上で適正サイズを勧めてくれたとしても、最終的に着心地の良し悪しを判断できるのは自分しかいないのだ。では、判断できない場合はどうすべきか。「ヒートテック」なら試着すればいいが金融商品はそうはいかない。投資資金が有っても無くても良いと思えるほどお金持ちの方はご自由にどうぞ。そうでないなら、本来買ってはいけないのだ。

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金融研究部   准主任研究員

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

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