コラム
2012年05月28日

「シュウカツ」という「老い支度」-「終活」は「就活」

土堤内 昭雄

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最近、「シュウカツ」ブームである。学生が将来の職業選択として行う就職活動という意味の「就活」もあるが、ここでは人生の最期を迎える「終活」のことである。今年4月、NHK特報首都圏で『「終活」人生のエンディング・死後を自分で準備』が放送された。そこでは「最後まで自分らしく生きるために、人生の幕引きを生きているうちから決める人が増えている」ことが紹介されていた。

確かに大型書店に行くと、エンディングノートのコーナーがあり、関係図書が並んでいる。中を見ると、葬式、墓、遺産相続や生命保険など死後に後始末が必要な項目を整理したり、生前の遺影撮影、認知症など介護への対応、延命治療の要否を考えるなど、様々な「終活」内容が記入できるようになっている。私は5月21日の「研究員の眼」で幸齢社会の「老い支度」について書いたが、「終活」は人生の最期を前向きに生きるための「老い支度」なのだ。

「終活」ブームの背景には「一人暮らし」が増え、死後に回りの人に迷惑をかけたくないという拡大する「おひとりさま」社会のニーズがある一方、家族構成に関わらず自分が生きてきた証を残したいといった面もある。また、人生の最期をどう迎えるのかというエンディングに留まらず、もっとポジティブに最期までをどのように生きるのかというウェル・エイジングの「終活」もある。

エッセイストの岸本葉子さんが昨年7月から今年3月まで日本経済新聞夕刊に『シングルの老い支度』というコラムを連載していた。50歳の岸本さんが取り組む「老い支度」とは、将来、身近に頼れる人がいないかもしれない「一人暮らし」を前提として、どのように歳を重ねていくのかというウェル・エイジングを考えるものだった。

人は社会との関係性の中で自分の役割を見つけ、自己肯定感を抱き、「自分が何者であるのか」というアイデンティティを持つ。それが自分の居場所をつくり、生きがいや幸福の源泉にもつながる。しかし、加齢とともに職場や家庭、地域における人間関係が希薄になり、自己の役割の喪失が社会的孤立を生み、暮らしの質(QOL)を低下させる。

高齢期を「よく生きる」とは自分自身が社会の中で「よく活きる」ことだ。最期まで活き活きと暮らすためには社会との関係性を維持することが重要であり、そのためには何らかの社会的役割をデザインすることが必要なのだ。自分が社会の中で「よく活きる」ための「老い支度」は、実は新たな高齢期の社会的役割を獲得する「就活」でもあるのではないだろうか。
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2012年05月28日「研究員の眼」)

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