コラム
2012年05月15日

消費税の逆進性は大問題か?

櫨(はじ) 浩一

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1.消費税の逆進性

消費税率の引き上げでは、逆進性の問題が焦点の一つとなっている。所得税は収入が多いほど高い税率が適用され、高所得者ほど所得に対する税の割合が高くなるようになっている。ところが、高所得者ほど可処分所得に占める消費支出の割合は低いので、消費支出に課税すると、可処分所得に対する税の割合は所得が上昇するほど低下することになってしまう。このため、消費税は豊かな人ほど税率が低くなる逆進的なものだという批判があり、税率を上げていくと逆進性の問題を回避することが必要になるとされる。
   逆進性の問題を回避する一つの方法は、生活必需品に低い税率を適用することだ。エンゲル係数はよく知られているが、所得が高いほど消費支出に占める食費の割合は低下する。食料品は生活必需品の典型的なものだから、例えば食品の税率をゼロにするなどの提案がある。食料品の税率を下げるだけで、確かに消費税の逆進性は相当緩和されるはずだ。


2.ハンバーガーの税率は?

日本の消費税と同類の付加価値税の標準税率が20%に達する英国では、食料品に対する税率はゼロ%だ。しかし、お菓子や嗜好品は通常の税率であり、レストランなどの食事に対しても標準税率が適用される。確かに高級なレストランで食事をするのは金持ちが多いだろうから、もっともな気がする。
   では、ファーストフードでハンバーガーを食べたらどうか?これには標準税率が適用されて、付加価値税がかかる。レストランはともかくファーストフードは高所得者の利用は少なく、どちらかと言えば所得の低い人の利用度が高いだろうから、これに高い税率をかけるのは違和感がある。
   英国の付加価値税のホームページに行くと、どのようなものに課税されるのかについての詳細な説明がある。調理済みのハンバーガーを店頭で売っているのであれば税率はゼロだが、ファーストフードのハンバーガーに標準税率が適用されるのは、レストランと同じように調理して提供するからだ。冷たいハンバーガーを温めてお客に出すと税金がかかり、電子レンジを店においてお客が勝手にそれで温めるというのでも標準税率が適用される。
   作り立てのパンがたまたま熱いのであれば税率はゼロだが、パンを温かいままで売るということとの差は微妙だ。冷たいものと温めたものを一緒にしたものの税率はどうなるのか等々延々と説明されているように、軽減税率と標準税率の境界を決めるのは簡単な話ではない。


3.税社会保障の一体改革とは

よく考えてみれば所得税も、必ず貧しい人の方が豊かな人よりも税率が低いとは限らない。毎月の収入は少なくとも、実は大金持ちということはいくらでもある。生涯を通してみたときに、生涯所得が高い人の税率が必ず生涯所得が低い人よりも高くなっている訳でもない。消費税の逆進性を緩和するために給付付税額控除が提言されているが、そもそも所得の補足に問題が多く不公平感が強かったことも、消費税が導入された理由のひとつだったはずだ。
   消費税、所得税、年金や健康保険というように、個々の制度毎に公平性を確保しようとしても、それぞれの制度が恐ろしく複雑なものになるだけで、結局公平なものにはならない。英国の付加価値税の例を見ても、これほど複雑なものでも十分に公平性が確保されているとは思えない。
   そもそも税社会保障の一体改革とは、個別の制度ではなく社会保障制度を支える税も含めた全体の制度設計を目指したものではなかったのか。個々の制度に問題はあっても、全体として公平性が保たれていれば可とすべきではないだろうか。税や保険料という負担面だけではなく、給付面も含めた制度全体で、豊かな人は給付に比べて負担が大きく、そうでない人は給付に対して負担が小さくなっていれば十分だろう。消費税の逆進性だけをことさらに取り上げてこれを問題視するのは、結局非常に複雑な制度を作りだすだけに終わる恐れが大きい。税や社会保障、財政の全体として制度が改善するかどうか、木よりも森を見て議論をすべきではないだろうか。

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