コラム
2012年04月27日

集中か分散か ― 国・地方の役割分担見直しが本質

櫨(はじ) 浩一

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1.揺れる振り子

筆者はコンピューターの専門家でも、情報処理の専門家でもないが、長年利用者として見ていると、この世界でも集中と分散の間を、振り子が行ったり来たりしているよう感じる。

もともと、行政や企業の事務処理は、それぞれの事業が行われている場所で分散して処理されていた。20世紀半ばに大型計算機が登場したことで、大量の事務処理を高速でできるようになり、様々な業務の集中処理が行われるようになった。

それが、パソコンが登場し、性能が飛躍的に向上したことで、高度な情報処理が簡単にどこでもできるようになり、再び分散処理へと流れが変わった。パソコンをたくさんつなげたネットワークを作って分散して計算させれば、ごく普通のパソコンで巨大計算機の代名詞であるスーパーコンピューターにも匹敵する計算能力を発揮することができる。インターネットも情報の流れを太い幹線に集中させて集中管理するのではなく、コンピューターのネットワークに分散させるものと理解できるだろう。

2.優位性を決める条件

ところが、パソコンとインターネットの普及で分散処理が当たり前になっていたビジネス社会で、シンクライアントと呼ばれる集中処理の登場で、再び振り子が集中処理側に振れようとしている。シンクライアントは、利用者が使う端末には必要最小限の処理をさせるだけで、ほとんどの処理をどこかで集中して行うシステムだ。

集中と分散の動きが繰り返されるのは、どちらかが明らかに優れているということではなく、それぞれ長所と短所を持っているからだ。分散処理と集中処理の間を振り子が行ったり来たりしているのは、情報処理に関連した技術条件の変化や、業務処理を巡る社会的な条件が変化したため、分散が優位になったり、集中が優位になったりしているからだろう。

シンクライアントは、端末の能力が低くても済むという低価格が当初は売り物だったが、それによって普及があまり進んだわけではない。近年急速に普及が進んでいるのは、個人情報の保護などの観点から、情報管理が容易であるという安全性の問題が重要性を増したことも一因とされている。

3.集中か分散か

企業経営では一時、誰もが「選択と集中」を唱えたことがあるが、今となって見ると、必ずしも全ての企業にとって事業の集中が正解だったという訳ではなかったのは明らかだ。国と地方との関係でも、スローガンとして地方分権、地方分散が叫ばれるが、必ずしもあらゆる行政の領域で、地方に権限を分散させれば何でもうまく行くという訳ではないだろう。

重要なことは、何が日本全体で運営されなくてはならない制度で、何が地方の選択と創意工夫にまかせるべき分野なのかという、国と地方の行政領域の分担を見直すことだ。望ましい分担の仕方は、いつの時代も同じというものではなく、日本社会がおかれた状況によって変わるはずである。第二次世界大戦直後には最適であった役割分担も、半世紀以上の年月を経て大幅な見直しが必要だということが、地方分権や地域主権問題の本質ではないだろうか。
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