コラム
2012年04月02日

消費離れの今どきの若者たち、消費牽引の鍵は?

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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いつの時代でも「今どきの若者は・・・」というフレーズを耳にする。大抵、このあとに続くのは、それぞれの時代の若者の特徴に対する否定的な論調だ。

2012年現在、今どきの若者と言えば、団塊世代やバブル世代が若者だった頃に好まれていたクルマやブランド品、海外旅行といった比較的高額な商品・サービスからの消費離れで世間を賑わせている。そして、その背景は雇用情勢の悪化による購買力の低下や価値観の変化などによって説明されている。

先日、拙稿1 では若者が現在の経済状況にどれくらい余裕を感じているかを分析した。正規雇用か非正規雇用かを軸に二極化傾向があり、余裕を感じているのは正規雇用の共働き夫婦、正規雇用の独身男性、夫が正規雇用で高収入の専業主婦など世帯収入に余裕のある層であり、余裕のなさを感じているのは非正規雇用者のうち特に独身男性のほか、正規雇用でも年収がさほど多くない既婚男性であった。また、かつては優雅な独身層として揶揄されていたパラサイト・シングルも現在では随分事情が変わっており、非正規雇用で経済的な不安があるために結婚に至らない未婚男性が親と同居している様子が窺えた。

中高年の常識では同世代における二極化は不憫なことであり、経済的に余裕がなければ欲しいモノも買えずに日々の生活にも不満が多いに違いないなどと捉えがちだ。若者の消費を牽引する鍵も、経済的に余裕のあるセグメントをどう取り込むかだ、などと結論づけるのかもしれない。しかし、今どきの若者については、そう単純な話ではないようだ。

内閣府の調査によると、20~30歳代の7割は現在の生活に満足している。これは40~60歳代よりも高い値である。また、レジャー・余暇生活など生活各面をみても、それぞれで高い満足度を示している(図1)。さらに幸福感をみても、20~30歳代は40歳代以上より高くなっている2。つまり、経済的な余裕は二極化し、非正規雇用も多くを占める3今どきの若者だが、大半は現在の消費生活に満足しており、幸福感も高いのである。

現代社会では安価で良質なモノがあふれており、若者が欲しいモノは必ずしも高額とは限らない。経済的に余裕がなくても欲しいモノを手に入れることもできるため、低所得でもそれなりに充実した消費生活を送ることができる。このような図式が先の調査結果につながるのかもしれない。よって、経済的に余裕のあるセグメントだけが消費を牽引するという単純な話にはならない。

それでは若者の消費牽引の鍵は何だろうか。

ここで若者の思考を紐解くキーワードとして「パラダイス鎖国」4をあげたい。これは、国内のそれなりの市場規模に満足し、諸外国との競争に目を向けずに世界市場から取り残される現象を指すのだが、安価で良質なモノがあふれ生活も便利な我が国で、低所得でもそれなりの消費生活を送って満足している若者の様子と似ていないだろうか。また、両者には長期的視点がないという共通点もある。

では、今の楽しみに重きを置き、パラダイスに住む若者たちの消費を牽引する鍵は何だろうか。

モノが充実した社会では、もしかしたらそれはモノ以外の何かなのかもしれない。携帯電話やパソコン、ソーシャル・メディアが浸透する世の中では、まず、コミュニケーションという切り口があがるのだろうが、ここでは敢えて別の切り口を取りあげたい。

内閣府「社会意識に関する世論調査」によると、20歳代の社会貢献意識は増加傾向にある(図2)。男性は直近でやや減少しているが、1980年代では3割に過ぎなかったことを鑑みると、大きく増加している。なお、2011年の調査実施は東日本大震災前の1月であり、次回は上昇に転じると予想される。

震災直後、売り上げがチャリティに充てられるような商品を多く目にした。某サッカー選手の著書は印税が復興支援に充てられるとのことで、女性を中心に一層売上を伸ばしたという話も聞く。特定商品の購入が何らかの社会問題の解決につながると訴えることで、企業の利益獲得と社会貢献を同時に実現する取り組みをコーズ・マーケティングという。案外満たされた消費生活を送り、社会貢献意識も高い今どきの若者には、何らかの理由づけを与えた商品・サービスが消費牽引の鍵になるのではないだろうか。若者が長期的展望を持たないパラダイスに住んでいるのは、明るい将来を見通しにくいことにもよる。若者の将来に対して何らかの布石となるような施策とモノの組み合わせが効果的だ。
図1 現在の生活および生活各面に対する満足度/図2 20歳代の社会貢献意識

※本稿はBUAISO No.49(2012年4月発行) プレパラート「消費のリーダーシップ-雇用情勢悪化・消費離れの今どきの若者たち、消費牽引のキーワードは?-」を加筆修正したものです。
※RCMC脚注
 
1 久我尚子「若年層の経済的余裕感~消費離れ・厳しい雇用情勢の今どきの若者たち、暮らし向きの実感は?」, ニッセイ基礎研REPORT, 2012年4月号, pp.28-33.
2 内閣府「平成22年度国民生活選好調査」にて、幸福感の現状について10点満点で回答した平均値が20~29歳で6.55、30~39歳で6.66、40~49歳で6.36、50~59歳で6.41、60~69歳で6.35、70歳以上で6.45であることによる。
3 非正規雇用者の割合は15~24歳の男女と25~34歳女性で4~5割、25~34歳男性で15%を占める。
4 海部美知,「パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本」, アスキー, 2008による。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2012年04月02日「研究員の眼」)

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