2012年03月23日

J-REIT市場10年の軌跡と今後の成長要件~米国REIT市場の発展に学ぶ~

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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■見出し

1. 時価総額10兆円を目指すJ-REIT市場
2. J-REIT市場10年の軌跡
3. 米国REIT市場の発展に学ぶ
4. おわりに

■introduction

昨年9月に創設10周年を迎えたJ-REIT(不動産投資信託)市場は、この間、不動産の「最後の買い手」として約8兆円の運用資産を取得し、不動産投資市場における存在感を高めるとともに、豊富な情報開示を通じて市場の透明化に大きく貢献してきた。また、2008年9月のリーマン・ショックを契機とした世界的な金融危機に対応するために、日本銀行はJ-REIT投資法人債の適格担保化を決定し、さらには、資産デフレからの脱却に向けてJ-REIT投資口の新規購入・増額を発表するなど、J-REIT市場は国内金融システムの維持や国民資産の形成に影響力を持つ社会的公器として評価されるまでに成長している。
一方、次なる10年を展望した場合、克服しなければならない課題も残る。昨年は、東日本大震災に加えて欧州債務危機の深刻化など国内外で逆風が吹き荒れて、東証REIT指数は26%下落し、2008年以来の大幅下落となった。価格下落により市場全体の分配金利回りは6%台へ上昇したが、こうした高利回りはJ-REITの金融商品としての低い認知度の裏返しでもある。そして、グローバルREIT市場におけるJ-REITの占率は、この数年ほぼ横ばいの6%にとどまっており、日本より遅れてスタートしたシンガポール・香港といった新興アジア市場との差は縮小傾向にある(図表1)。
不動産証券化協会(ARES)は、昨年9月に開催した「Jリート10周年記念シンポジウム」で、J-REIT市場がアジアの中心的立場を確保し世界の市場で存在感を示すために、現在の時価総額3兆円を10兆円へ拡大する目標を掲げて、「市場の多様化(運用資産の多様化、地域分散の拡大、投資家層の拡大、資金調達手段の多様化)」や「制度の国際的イーコールフッティング(同等条件)」などに取り組むとしている。また、金融庁はアクションプランにおいて、REIT制度の見直し・規制緩和を行う方針を示しており、資金調達手段の多様化を含めた財務基盤の安定性向上、投資家からより信頼されるための運営・取引の透明性確保等を検討し、年内に議論をとりまとめて2013年に制度改正を実施する予定だ。
そこで、本稿では、J-REIT市場10年の軌跡を振り返るとともに、50年以上の歴史を持つ米国REIT市場の発展に学び、市場成長に求められる要件について考察する。

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

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