コラム
2012年03月15日

『電力神話』の崩壊とスマートメーター

  川村 雅彦

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東日本大震災から1年。この間、日本社会の電力に対する考え方が大きく変わった。それまでは、電力を使う方は「電気は必要なだけ使う」ことができたし、電力を作る方には「需要があるだけ発電する」という使命感があった。これを『電力神話』と呼ぶならば、3月11日以降、需要側と供給側の双方にとって、この神話は崩れ去った。
   大震災によって、原子力発電に限らず地域独占の大規模集中型の電力システムは高品質な電力を供給できる半面、災害に対する脆弱性とリスクが露呈した。それゆえ、今後のわが国の電力システムの方向性は、次の3点にまとめることができるだろう。
   まず、原発の新規建設計画は白紙となり、既存原発の再稼働についても短期的には進まない。当面は天然ガスによる火力発電の増強に頼らざるをえないが、代わって注目されるのが再生可能エネルギー(いわゆる自然エネルギー)などの小規模分散型システムへの投資である。現にソフトバンクはメガソーラー(大規模太陽光発電所)事業へ本格参入した。
   次に、電力システムは需要側の便益をより重視するようになる。原発の稼働率が極端に下がっていることから、今後とも需要側の節電は不可欠である。そこで節電・省エネのコンサルであるESCO(Energy Service Company)事業の必要性が改めて認識され、さらには新ビジネスとして多様なエネルギー・サービスが登場しよう。
   さらに、節電の促進や付加価値の高い電力サービスの実現のために、電力システムそのものがスマート化していく。これが最も大きな構造的変化と考えられるが、ICTによって電力システムの効率化や需給制御が可能となる。その核となるのが電子式電力計「スマートメーター」であり、現在の検針員目視による機械式電力計に代わって広く普及すると予想される。

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スマートメーターは送電網と家庭や事務所・工場を結ぶ“新しい接合点”の役割を果たし、その基本的機能は(1)リアルタイムの電力自動計測、(2)双方向の電力データ通信、(3)電力の需給調整である。これらにより供給側では顧客管理の基礎データが即時的に把握できるようになり、需要側では電力消費パターンから無駄を検出し、必要に応じて家電や太陽光発電の制御が可能となる。これがスマート(賢い)と呼ばれる所以である。
   このスマートメーターを中心として、住宅はスマートハウスに、事務所や工場はそれぞれスマートオフィス、スマートファクトリーになり、さらに送電網はスマートグリッドに変貌していくことになる。
   ピークカットや再生可能エネルギーの大量導入のために、これまでもスマートグリッドの取組は進められてきた。ただ、技術的課題に加えて、電力小売りの自由化や顧客電力データの情報公開などの点から、電力会社は必ずしも積極的ではなかったと言われている。しかし、大震災を契機として、この姿勢にも少しずつ変化が見られる。
   東京電力は系列中心の調達であったスマートメーターについて、仕様改良提案を含む国際競争入札にかけ(調達コスト圧縮の狙いもある)、2013年度から一般家庭に順次導入する。10年後にはオフィスや工場を含む全契約者2700万件で切り替える計画である。これに呼応するように、米国GEはこの夏に低価格を武器に日本市場に参入する。
   今夏も電力不足が懸念されるなかで、東京電力管内では大口需要家の電気料金は平均17%値上げされる。そうなれば需要側の電気を賢く使うためのニーズは増大するが、現状ではスマートメーターの普及は欧米が先行している。ある調査では、2010年の市場規模は欧米を中心に海外の1,930億円に対して、日本は40億円にとどまっている。
   一方、経済産業省は家庭や企業などにも電力使用量が送信される双方向型のスマートメーターの導入を電力各社に義務付ける方針である。これは電力会社ごとに異なるスマートメーターの事実上の国内統一規格となり、需要・供給双方の便益向上につながる。これまで電力会社が独占してきた電力データを開示することで、新たな節電サービスや新規電力事業者の参入が可能となる。
   このように見てくると、東日本大震災と福島第一原発の事故を契機に、スマートメーターを要として、これまで当たり前と思ってきた日本の電力システム(電力神話)は大きく変貌をとげていくと予想される。

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