コラム
2012年03月07日

男と女の幸福格差―目指せ“大資本家”

土堤内 昭雄

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男と女ではどちらが幸せだろう。内閣府が行った平成21年度国民生活選好度調査では、「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として国民の主観的幸福度を尋ねている。男女別の集計結果は、男性6.24点、女性6.69点と女性が少し高い。性・年代別にみてもどの年代も女性の幸福度が男性を上回っている。また、得点分布をみると7点以上の幸福度の高い人の割合が男性48%に対して女性は59%と多いことが特徴だ。このように同調査結果からは女性は男性より幸福であるようだ。

一方、日本社会の不幸な側面を象徴するひとつの社会事象は年間自殺者の多さだろう。わが国では98年以降13年間連続で年間3万人以上が自殺しており、今月は「自殺対策強化月間」になっている。内閣府の平成23年版自殺対策白書によると、2010年の自殺者数は31,690人で、男性が22,283人と全体の7割を占めている。男性の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は35.9と女性14.4の2.5倍に上る。また、40~60代の男性だけで全自殺者の約4割を占め、20~44歳の男性の死因の第1位は疾病ではなく自殺になっているのである。ここからは男性は女性より不幸であるように思われる。

このようなことから『一般的に男性の幸福度は女性よりも低いのではないか』という仮説が浮かぶ。もちろん個人の主観的幸福度は個人差が大きく、総合的に様々な要因が重なった結果であり、単純に性別と幸福度の因果関係を説明することはできないのだが、ここでは一般的な男性と女性の幸福格差の要因を考え、男性がより幸福度を高めるためのヒントを探ってみよう。

男女を巡る社会経済環境の不平等度を示す指標として世界経済フォーラムが公表している“The Global Gender Gap Report 2011”のジェンダーギャップ指数をみてみよう。日本は0.651(完全平等はスコアが1)で134か国中98位と男女格差の大きい国に位置する。特に経済分野や政治分野においてはスコアがそれぞれ0.567、0.072と格差が大きく、女性の経済的・政治的な立場の不平等は際立っている。それにもかかわらず女性の方が男性より幸福度が高いのはなぜだろう。

また、内閣府の平成22年版男女共同参画白書に掲載されている性・年代別の相対的貧困率*は、25歳以上のいずれの年齢階層においても女性が男性よりも高い。つまり相対的貧困率の高い女性の方が幸福度では男性よりも高いのだ。経済的豊かさはある水準以上では幸福度と相関しない「幸福のパラドクス」はよく知られているが、相対的貧困が幸福をもたらす要因のはずもない。むしろ経済的効用を得る手段である働き方や日常の暮らし方の中に幸福を損なう要因が潜んでいるのかもしれない。

保健分野のジェンダーギャップ指数は0.980とほとんど男女格差はなく、逆に女性は長寿で男性より優位な状況にある。また、男性の自殺者や孤立死が多いことは、男性の人間関係が希薄で社会の中で孤立しやすいからではないかと考えられている。特に中高年男性は「会話の頻度」が低く、「困ったときに頼れる人」がいない人が多く、「社会活動への参加」が低調であり、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の蓄積が乏しいのだ。

幸福度研究では健康状態や社会関係資本が強く幸福度に影響を与えるとされている。男性は女性に比べ人的ネットワークが限定的な場合も多く、それが女性より男性の幸福度が低いひとつの要因とも考えられる。健康・長寿で社会の中で多様な人間関係を有していることが幸福になるための重要なひとつの鍵だからだ。

このような社会関係資本の構築は、個人差によるものであり性別によるものではないのかもしれないが、企業生活における人的ネットワークが中心で地域や近隣との人間関係が希薄な人が男性に多いことも事実だ。これから団塊世代はじめ定年退職する男性が増え、地域での暮らしがますます重要となる中で、男と女の幸福格差は一層拡大する可能性がある。その格差是正のためにはまず男性が家族のみならず、地域住民、友人、異世代、異性などとの多様な人間関係を醸成し、豊かな社会関係資本を有する“大資本家”を目指す必要があるのではないだろうか。
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2012年03月07日「研究員の眼」)

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