コラム
2012年03月05日

震災と原発事故を乗り越え、世界一省エネで安全な国へ

  松村 徹

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東日本大震災から1年経った今も、首都圏では相変わらず頻繁に地震を感じる。大震災からわれわれは多くのことを学んだが、最大の教訓は、原発の重大事故がひとたび起きると、周辺地域や住民に耐え難い被害を長期にわたって与え続けるということである。恐ろしいことに、福島原発から半径170km圏が強制移住を迫られ、東京都など250km圏でも避難が必要になる可能性があるという「最悪のシナリオ」が事故直後に想定されていたことが1年近く経って明らかになった。最近公表された「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書などを読むと、首都圏を含む3千万人が避難民となる最悪の事態にならなかったのは、ひとえに運が良かっただけとしか思えない。狭い国土に54基もの商業用原発を抱える日本では、いまや何時何処ででも大地震が起こるかもしれないだけに、「このままでは明日はわが身」という不安は、首都圏に限らず多くの国民に共通した思いではないだろうか。

日本のエネルギー政策のあり方についてさまざまな議論があるが、原発の重大事故とそれを引き起こした国や電力会社の杜撰なガバナンスやマネジメントを目の当たりにした今、向かうべき道ははっきりしている。いったん制御不能に陥れば、国家すら破壊しかねない巨大なリスクを持つ原発はすべて終息に向かわせ(それでも30年以上の超長期にわたって根気強く取組むことになる)、一方でこの危機をばねにして、世界一省エネルギーで安全な国づくりにまい進することではないか。「変えてはならない絆と、変えてゆく勇気と」。これは太陽電池や燃料蓄電池などの先進技術を訴えるハウスメーカーの宣伝コピーだが、われわれには、大きな困難を克服して社会のあり様を変えていく智恵と勇気が十分にあるはずだ。

不動産分野では、震災を経験した企業や消費者の意識と行動の変化に敏感に対応し、防災機能の強化と電力制御(節電、蓄電、発電、電源多重化・分散化、コスト削減)の高度化がトレンドとなった 。これに伴い、建築物や都市の防災機能強化、省エネ化、自然エネルギー利用などにおいて様々な技術や工夫が相次いでおり、既成概念を塗り替えるような新技術の登場も期待できる。そもそも、自然災害や停電リスクなど人びとの不安を取り除いて、安全・安心で快適な空間を提供することは不動産業の使命である。しかし、原発の重大事故とそれに伴う放射能汚染を想定した不動産業はありえない。ビルや住宅を核シェルター化せざるをえなくなった時点で、日本の不動産市場は崩壊しているからだ。

残念ながら、客観的にみて福島原発事故がいまだ収束せず事故原因の解明も十分ではないにもかかわらず、また、使用済み核燃料や放射性廃棄物の処理の行方も不透明なまま、安易に原発を再稼動させようとしたり、核燃料サイクルを延命させようとしたりする人びとがいるのも事実である。彼らは、多くの国民とは守るべきものが異なるのだろうし、震災前と変わらない世界に安住したいのだろう。しかし、最大の問題は、この期に及んでも方向感が定まらない日本政府ではないだろうか。国がこれまでのエネルギー政策の大転換を明確に宣言すれば、原発以外のエネルギー利用の課題として現在指摘されている技術的制約やコスト高などは、早晩大きな問題ではなくなるはずだ。今なお理不尽な避難生活や放射能汚染被害などで苦しむ多くの人々に対して真摯に過ちを認めた上で、政府は「変えてゆく勇気」を持って日本再生の道を示して欲しい。


 

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(2012年03月05日「研究員の眼」)

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