コラム
2012年02月29日

なぜ投資の罠にはまるのか- 投資に求められるリテラシー -

  遅澤 秀一

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もしあなたが一定期間だけでも投資の天才と言われたければ、オプションのプットとコールを売り続ければよい。勝率は高いので運が悪くなければ、一定期間は安定的に利益を上げられる。だが勝率は決して100%ではない。いつかは大きな損失を出して積み上げた利益を吹っ飛ばすかもしれない。
   やはり勝率だけでは駄目で損切りも大事だ。それに将来上がるか下がるかは半々で予測するのは難しい。では、こんなのはどうだろう。2%上昇したところで利食い、1%下落したら損切りするのだ。この方法ならば長期的には儲かるはずだ。残念ながら、この考えは間違っている。損切りルールを設定した時点で、勝率は大きく低下してしまうからだ。たとえば1.5%下がってから切り返してから2%上がる場合もあることを考えればわかるだろう。
   では、勝率と1回のトレードの損益率を考慮して、破産確率が1%以下となるように1回の取引量をコントロールすればよい。破産確率1%ならば100回に1回しか起こらないから万全だ。もっともデイ・トレードでは取引回数はすぐに数百回になってしまうだろう。これではほぼ確実にいつか破産してしまう。
   そもそも運や偶然に頼るから駄目なのだ。過去、株価が上がった条件を調べてから投資すればよい。この考え方の問題点は必要条件と十分条件をはき違えていることと、相関関係と因果関係を混同していることだ。上がった時の条件に法則性が見出せても、その条件の時に上がることとは違う。まして因果関係が認められなければ、将来は何も保証されない。
   やはりマクロ経済やファンダメンタルズを勉強してから投資すべきだろう。景気が良くなれば株価は上がるし、金利上昇は株価下落をもたらす。今日の経済紙には、昨日の株価上昇は企業業績の改善が理由だとのストラテジストのコメントが載っていた。もっとも今日相場が下がれば、金利上昇懸念で株価が下がったと同じ人間が言い出すかもしれない。景気がよくなれば金利も上がるから、景気に注目すれば業績相場、金利上昇に眼を向ければ逆金融相場だ。株価が上がる理由を3つ挙げられる時は、下がる理由も3つ挙げられるものだ。
   人の言うことを鵜呑みにするのではなく、自分で数字を確かめなければ駄目だ。バリュー株投資が良いらしい。実際、割安株と割高株のパフォーマンスを実証分析して比較すると、長期的には割安株の方が統計的に有意にリターンがよい。ではバリュー株投資をやってみるか。残念ながら、期待した投資パフォーマンスが得られるかどうかはわからない。そもそもバリュー株の高リターンはTOPIXやグロース株との相対的比較であって、個人投資家が求めている絶対リターンがどうかは別問題だ。また、機関投資家ならば十分な銘柄数を分散投資できるし、アナリストによって銘柄の質のチェックもできる。バリュー銘柄を適当に数銘柄見繕って買ったところで、パフォーマンスは運次第だ。
   こうなったら、プロの運用するファンドを購入したらどうか。特色のある運用をしていて1年ぐらい実際の運用実績があればよいだろう。逆にあなたがこのような顧客にファンドを売り込みたければどうすればよいだろうか。もっとも簡単な方法は、スタイルの異なる複数のファンドを走らせ、1年たったら最もパフォーマンスのよいファンドを売ればよい。

ここで述べたようなことは、良識と中学・高校程度の数学の知識があればわかることだ。デカルトの「方法序説」によれば、良識は誰でも持っている(ことになっている)。問題は数学の方だ。日本数学会の「大学生数学基本調査」によれば、大学生のうち4人に一人は平均の概念を正確に理解していないと言う。「これだからゆとり世代は駄目だ」と言うことなかれ。ゆとり世代の親世代にしても標準偏差や回帰係数となれば、かなり怪しくなる。文部科学省が数学のカリキュラムを短縮したか、自分で勝手に短縮したかという五十歩百歩の差ぐらいしか無いかもしれないのだ。
   もちろん、個人投資家ならば自己責任で投資すればよい。問題なのは、確定拠出型年金の普及もあり、計数能力や論理的分析力の適性とは関係なく、投資と関わらざるを得なくなっている人達が増えているということである。現在、高校で必履修なのは「数学基礎」または「数学I」だそうだから、今後も罠にはまる人達は後を絶たないだろう。いっそのことフランスのように数物重視でエリートを選抜して、数理リテラシーの重要性を強調するぐらいのショック療法が必要なのかもしれない。

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