コラム
2012年02月27日

AIJ投資顧問のどこに問題があったのか

金融研究部 年金総合リサーチセンター 年金研究部長   德島 勝幸

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週末の様々な報道を見ると、今回の事案に関し表面的な理解に留まり根本的な問題に言及されていないケースが散見されている。現時点までに報道されていること等から、改めて幾つかの課題を整理しておきたい。事件の中心であるAIJ投資顧問が虚偽の情報開示をしていたことが事件の根幹に存在するのは間違いない。しかし、国内籍の信託勘定やファンドを利用し国内の信託銀行が資金フローを十分にチェックしている場合にはあり得ないことが起こったのである。タックスヘイブンに籍を置く外国籍投信を利用し、海外の信託銀行が介在したことで資金の流れを不透明にしていたことは間違いないが、必ずしもタックスヘイブンを利用したことは、事件の本質とは無関係である。他の先進国にファンドの籍を置く場合と異なり、あくまでもファンドの設定手続が容易であるというだけであって、問題は信託銀行による信託勘定の取扱いという根本的な業務が適切に遂行されていたかどうかということである。

次に、顧客の実態を考えると、虚偽情報の記載された募集文書で勧誘を受け、長期間にわたって安定的に高収益を挙げてきたという実績に惑わされた顧客については、昨今の運用難においてやむを得ない部分も多少ある。しかし、同社の行っていたような絶対収益追求型の運用は、過去に高い成果を挙げていたとしても、そのことが将来の高パフォーマンスを約束するものではない。専門的な表現で言えば、再現性に乏しい運用なのである。アクティブ運用と呼ばれる領域で、特に同社のような高いリスクを取り続けても十分な成果を挙げ続けることがいかに困難であるかは、実際に投資を行った人間が一番良く知っているはずである。また、運用を外部に委託する立場の年金にしても、そのような「運用の神様」のような運用会社が滅多にないということは認識していたはずである。

それでも過去の高い運用実績に惹かれざるを得なかったのは、特にAIJ投資顧問の顧客の多くとなった中小企業等を中心とした総合型と呼ばれる企業年金の構造的問題に帰着する。企業年金の場合、年金給付までの期間に運用によって資産を増やすことを予定している。ところが、バブル経済の崩壊によって、日本の金利は世界史的にも稀に見る低水準が続いており、一方、株価は上昇と下落を繰返し1980年代後半の水準まで低下している。為替の円高も海外投資に対しては、元本の減少を引き起こすものである。近年の企業年金運用においては、株式や為替による価格変動を抑えつつ、絶対収益を獲得できる運用によって少しでも利回りを嵩上げするという選択肢を選ぶ者が多かったのも、やむを得なかったのではないか。年金の運用者のみならず、将来の受給者である個人にしても、低金利政策と日本経済の低迷による皺寄せが来ているのである。

業績に余裕のある大企業の場合には、運用の成果が十分でないことによって生じる年金資産の積み立て不足に対して一時金を持込んで運用負担を軽減することも可能だが、それ以外の企業等の場合には余裕がなく、依然として高い利回りの運用想定を置かざるを得なくなっている場合が多い。そのことが、AIJ投資顧問の“あり得ないような”高い運用実績に惹かれる要因となったのである。米国の私的・公的年金においても、多くの年金が利回り不足に苦しむ中で、一部の年金が高いリスクを取ることで、必要な運用利回りをカバーしていた例も見られた。総合型の年金基金等がAIJ投資顧問へ運用を委託したのは、同様の構造が背景にあるためである。

その他にも、金融庁による運用会社の検査が十分でなかったという批判も見られる。しかし、金融庁及び証券取引等監視委員会の検査対象は、メガバンクから中小金融機関、証券会社から保険会社等様々な業態に及び、運用会社にしても投資信託から小規模な投資助言業者まで幅広く、AIJ投資顧問のようなファンド運営会社まで含めると、検査対象は膨大になる。当然、検査の実施は頻繁には出来ず、規模の小さな運用会社に対しては、なかなか立入検査にまで及ばないのである。しかも、無届けの未公開株や社債による被害に対応して、登録されていない運用会社等への検査も行わざるを得ない。今回のAIJ投資顧問の事件にしても、市場参加者の懸念する声が複数届いて、ようやく重い腰を上げたのでしかない。悪質な業者に対して当局の監督による対応を望むことは間違いではないが、自らがそういった金融商品取引業者を見抜く眼を持つべきだろうし、また、それも困難な場合には、第三者の意見を求めることも必要だろう。

今回の事例の教訓として、少なくとも今言えることとして、以下の三つを挙げておきたい。(1)業界全般を見回しても特異な運用成果を挙げている場合には、実態を疑ってみること。(2)同様な立場の委託者や運用者の動向に左右されず、他が採用したからといって十分な審査も行わず横並び的に飛びつかないこと。(3)自らだけで判断できない場合には、信頼できる第三者に意見を聞くこと。今後の調査・捜査の進展によって更なる問題が明らかになるかもしれないが、現時点でも可能なことから、取組んでみてはどうだろうか。

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金融研究部   年金総合リサーチセンター 年金研究部長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
年金・債券・クレジット・ALM

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