コラム
2012年02月24日

「年金2,000億円 大半消失」の報道を受けて~オフショア・ファンドの実態解明を望む~

金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任   井出 真吾

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2月24日付け日本経済新聞朝刊の一面に衝撃的な記事が掲載された。ある投資顧問会社が、顧客である企業年金から運用受託していた約2,000億円の大部分が消失していたという内容だ。証券取引等監視委員会が同社に対して行った検査で判明したそうだ。高い運用収益をあげていると顧客に虚偽の報告をしていた疑いがあるとして、金融庁は同社に業務停止命令を同日出している。更に同社の業務実態によっては刑事事件に発展する可能性もあると報じられている。

被害にあったのは地域の中小企業が作る総合型と呼ばれる厚生年金基金が大半で、同社の開示資料によれば昨年9月末時点で124顧客から1,984億円を受託していたという。単純平均すると1基金あたり16億円となることから、運用資産の殆どを同社に運用委託していた基金もあるのではないかと推察される(日経新聞も同様に報じている)。仮にそのような基金があれば、現在年金を受給している退職者への支払いに支障を来たすばかりでなく、将来受給者となる従業員のために積み立てていた資産も毀損した可能性が高い。

同社が実際にどのくらいの損失を出したのか、どういった運用方法でなぜ巨額損失に至ったのか、また、その損失をどうやって隠し続けたのか等、再発防止のためにも当局の実態解明に大いに期待したい。以下では、この報道を受けての私見を述べる。

運用会社やファンドを選ぶ際は、とかく運用方法や過去の運用成績に目が行きがちだが、それだけでなく顧客資産の実質的な管理主体や監査法人が信頼できる先か、よく確認することが重要だ。金融商品取引法では、運用会社が顧客から預かった資産を運用会社自身の資産とは区別して管理することが義務付けられている。しかし、形式的には分別管理されていても、その資産管理会社が実質的に運用会社との一体経営ではないか、立場上、運用会社の言いなりになる懸念がないか、そもそも資産管理を任せる先として信頼できるかなど、事前によく確認する必要があろう。

特に今回のケースで気になるのはオフショア・ファンドの形態を取っていることである。オフショア・ファンドとは、ケイマン諸島やバミューダ諸島など、投資に関する規制や税制上の優遇措置がある市場に籍を置くファンドのことである。ヘッジファンドでは広く利用される仕組みであり、その形態自体は否定されるものではない。しかし、資産内容のチェックが全て海外の租税回避地にある会社でなされるため、ひとたび問題が生じたときの情報開示の悪さや報告の遅さが原因となり、顧客(投資家)の不信感を増大させたことがある。

今回問題となったファンドを紹介する資料には、資産管理会社は「バミューダ銀行(HSBC金融グループ)」と記載されている。試しにインターネットで「HSBC金融グループ」をキーワード検索してもそれらしいサイトは見当たらず、世界的な金融グループである英HSBCグループの一員か否か、一般人には判然としない。ただ、2004年にHSBCグループがバミューダ銀行を買収したようなので、資産管理会社には特に問題は無いかもしれない。

また、ファンドの監査法人は「グラント・ソーントン(ケイマン)」と記載されている。調べてみると、英ロンドンに本部を置き、世界100カ国以上をネットワークする「グラント・ソントン」という国際会計事務所グループが実在する。ファンドの監査法人と微妙に名称が違う点が気掛かりではあるが、同会計事務所のホームページによればケイマン諸島にも拠点があるようなので、こちらも断定することはできない。

予断は禁物だが、仮にファンドの資産管理会社や監査法人が世界有数の金融グループや国際会計グループと無関係であった場合は、これらの実態について同社が顧客にどのように説明していたのかについても焦点が当たることになろう。仮に虚偽の報告だけでは済まず、“虚偽の説明”が付け加わることになれば、資産運用業界の信頼にも大きなダメージを与えることになりかねない。逆に、資産管理会社、監査法人とも特に問題がないとすれば、運用会社あるいはその関連会社が単独で虚偽報告していたことになる。

いずれにしても資産管理会社や監査法人が信頼できる第三者であるか、そして何より運用会社そのものが信頼できるか、ファンドの利回りもさることながら、預けたお金がきちんと管理・運営されるか、自分達の財産を守るためにも入念なチェックが欠かせない。

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金融研究部   チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資

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