コラム
2012年02月23日

震災から1年~企業ボランティアの“ちから”

土堤内 昭雄

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東日本大震災から間もなく1年になる。2月には復興庁が立ち上がり、本格復興に向けて進んでいる。これまでも多くのボランティアが被災地に入り、様々な支援活動を展開してきた。95年の阪神・淡路大震災の時には延べ140万人のボランティアが活動し、それが後のNPO法の実現につながった。あれから10年以上が経過し、今回の大震災ではボランティア活動は個人だけではなく企業にも大きく広がっている。

企業ボランティア活動には大きく分けて3つのタイプがある。一つは従業員を組織的に被災地に派遣し、がれきの片付けや物資の運搬など労働力を提供するものだ。企業は現地までの交通手段や宿泊先の確保、休暇制度などの面から支援する。二つ目は企業収益の一部を寄付したり、自社製品を無償で提供したりするものだ。現金による寄付だけではなく、食料品や衣料品、日用品など被災地に必要な品物の現物寄付である。三つ目は企業が持つ本業に関わるノウハウを提供するものだ。これらはいずれも被災地にとって極めて重要な支援となる。

先日、公益社団法人日本フィランソロピー協会が大きく社会貢献した企業を表彰する「企業フィランソロピー大賞」の贈呈式があった。今年度の大賞受賞企業はヤマトホールディングス株式会社だった。授賞理由は震災復旧・復興への全社を挙げての取組みだ。ヤマト運輸は震災直後、現地ドライバーがボランティアで避難所に救援物資を運んだことで話題になった。避難所では電気・ガス・水道といったライフラインとともに、食糧・衣料をはじめとした様々な救援物資が不可欠であり、その配送はまさにライフラインだったからだ。

発災以降、毎日全国各地から大量の救援物資が被災地に到着した。それらは一旦被災地の体育館や公民館などの公共施設に集積され、各避難所の状況に応じて必要なものが届けられる。しかし、混乱した被災地ではどこに何が必要で、それが集積所のどこにあるのかという情報管理が極めて難しい。ヤマト運輸は被災地の実情を熟知したドライバーの情報と集積場の的確な在庫管理により各避難所にそれぞれが必要とするものを届けた。これは物流事業者としてのノウハウがなければ実現しないことであり、今回の震災で企業ボランティア活動が示した重要な一面だったのではないだろうか。

これまで個人ボランティアでも「プロボノ」(Pro Bono Publicoの略:社会人が仕事を通じて培った知識やスキルを活かして行う社会貢献活動)といわれる個人の「専門性」を活かしたボランティア活動が注目されてきたが、今回のヤマト運輸の活動はまさに“企業版プロボノ”だったといえる。それは「労働力」の提供だけではなく知識・情報・スキル・経験・ノウハウといった企業が持つ「専門性」が体系的に活かされた企業ボランティア活動の好事例だと思われる。

また、ヤマト運輸は配達する荷物1個につき10円を寄付することを決め、それは今年度末に140億円に達するという。その額は純利益の4割に相当するそうで、これだけの巨額の寄付をすることに対して株主の理解を得ることは容易ではない。ヤマト運輸では公益財団法人ヤマト福祉財団に『東日本大震災 生活・産業基盤復興再生募金』を創設し、それが財務省から指定寄付金の指定を受けることにより“使途の見える寄付”を実現している。そして株主も長期的に見て企業価値の向上につながると了解したという。

近年では企業はCSR経営を標榜し、社会貢献活動を通じてその実践を図っている。今回のヤマト運輸の企業行動は社会的責任というよりは企業理念の具現化のように思われる。木川社長は贈呈式のプレゼンテーションで、この震災により会社として二つの大きな発見があったと述べている。ひとつは宅配事業が日本社会のインフラであることが確認できたこと、もうひとつは企業理念が具体的な形となって確認できたことである。それらは従業員の誇りや自己肯定感にもつながり、支援企業に「元気」を与えている。

やがて震災から1年が経過するが、まだまだ本格復興には時間、労力、資金が必要だ。個人、NPO、企業などが有する人的・物的資源に加えて、それぞれの専門的ノウハウを有効活用して復興の促進を図りたい。今年度は認定NPO法人への寄付優遇税制の改正もあったことから被災地に義捐金や寄付金を送った人も多いだろう。現在、寄付金の確定申告が始まっているが、還付されるのはお金だけではない。支援する企業の“ちから”は被災地から新たな“ちから”となって還元され、その“ちから”の循環が日本の「元気」を取り戻すのではないだろうか。

『 震災の  寄付で  元気も  還付され 』(土堤内昭雄、2012.2.23)
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(2012年02月23日「研究員の眼」)

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