コラム
2012年02月20日

東京ゲートブリッジが人を惹きつける3つ目の理由

廣渡 健司

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日曜日の午後、浦安から湾岸の357号線を都内に向かっていて、思わぬ渋滞にはまってしまった。渋滞の中から遠くを望めば、完成したての東京ゲートブリッジの上にも太陽の光を反射する渋滞の車がびっしり。橋に向かう車の列がここまで延びているようだ。通勤で新木場駅を乗換えに利用しているため、建設中、徐々に両側から延びていく橋梁の独特の姿が気になってきて、いつしか日々成長の姿を見守っていたのだが、ここまでの人気とは。空いていれば渡ってみようかと思っていた自分の読みの甘さを思い知った。

新聞報道によると、建設費は1125億円、周辺道路の混雑の解消などで158億~190億円の経済効果があると試算しているという。それでも、地図を見ると東京湾内の埋立地に弧を描くように結ぶ経路では、羽田と千葉の所要時間短縮効果がそれほどあるようには見えないし、「コンクリートから人へ」「公共事業から社会保障へ」そんなフレーズが飛び交うこのご時世、それだけ金をかける必要があるのか、という批判を浴びてもおかしくないと思うのだが、なぜか、ハコ物建設批判はほとんど聞こえてこない。そんな批判を抱かせない東京ゲートブリッジの魅力は何なのだろうか。

1つ目はなんと言っても「構造物としての迫力ある存在感」。最新型ではない鉄骨を組み合わせた“見た目に少しレトロな形状”は、新幹線よりも蒸気機関車に近い雰囲気で、2匹の恐竜が向かい合っているような姿はとても印象的だ。青空と海を背景に、富士山や東京スカイツリーも望めるとなれば、わくわく感がこみ上げる。

2つ目は「いくつかの制約をクリアした技術の結晶」であること。羽田空港の飛行空域による高さ制限と、大型貨物船の航行を可能とするための橋脚の間隔と桁下の確保といった制約をクリアするために、鋼材を三角形にいくつも積み重ねて強度を確保したあの独特な形状が生み出された。また、維持管理を容易にするためにネジをほとんど使わずに溶接で組み上げ、センサーを設置して地震の影響を即座に確認できるシステムを備える等、新しい仕組みも盛り込まれていて、日本の技術力を再確認できる。

そして3つ目は、完成までの工事の工程だろう。海の上に2匹の“恐竜”が現れ、徐々に成長しながら延びていき、その間隔が徐々に狭まり、最後にしっかりとつながる。技術と努力によって困難を徐々に克服し、隔離された二つの島が両方から手を差し伸べて中央でしっかりと繋がるそのストーリーが、我々の心を無意識のうちに揺さぶっているのではないだろうか。

東日本大震災を経験した我々は、生活の中で人と人との絆を意識する機会が増えた。そして今の日本には、社会保障と税の一体改革、TPP等、難しい問題が並んでいる。社会保障の必要性と財源問題、海外市場での競争力確保と国内産業の保護、目配りをしながら、バランスをとりながら、本質の議論をしっかりと積上げて、粘り強い交渉を続けていく必要のある問題ばかり。そう思いながら眺めれば、東京ゲートブリッジの姿は、我々に勇気を与えるモニュメントのようにも思えてくる。

むかし、「お父さんの仕事は地図にのっています」といったCMのフレーズがあった。東京ゲートブリッジに関わった方々も誇らしげに家族といっしょにこの橋を渡られることだろう。

いろいろな問題への対応も、後から「いい仕事」「賢明な選択」だと言われるようなより納得できる社会づくりを進めていかなければ、将来世代への責任を果たせないし、必ず将来、自分や子どもたちが渡っていかなければならない橋なら、ゲートブリッジのような力強く勇気を与えてくれる橋にしないといけない。そんなことを考えながら、今週末は息子と一緒に、東京ゲートブリッジを渡りに行こうと思っている。
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