コラム
2012年02月17日

介護クライシス~その時、中高年男性と企業の対応は

土堤内 昭雄

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これまで高齢者介護は主に女性が担ってきたが、今後は中高年男性が当事者になる可能性が高い。それを示唆する様々な事実があるものの、多くの中高年男性と企業は迫り来る介護クライシスをよく理解していない。そこで中高年男性に焦点を当てて高齢者介護に関する現況をみてみよう。

今年は団塊世代が65歳になり始め、この3年間に600万人以上が高齢者になる。2000年に導入された公的介護保険の2009年度末現在の要介護・要支援認定者は485万人だが、後期高齢者の要介護出現率は前期高齢者の7倍にも上り、10年後に団塊世代が後期高齢者になると日本はまさに“大介護時代”を迎えるのである。

このように増え続ける高齢者の介護を一体誰が担っているのだろう。厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成22年)によると、要介護者の64.1%が同居する家族に主に介護されている。次いで事業者による介護が13.3%、別居する家族による介護が9.8%となっている。公的介護保険の導入により介護の外部化が進み、平成13年と比較すると同居家族による介護が7.0%減少し、事業者による介護が4.0%増加している。

次に同居または別居する家族の主な介護者の性別をみると女性が7割を占め、やはり介護の担い手の中心は女性だ。しかし、男性比率の推移をみると平成13年の23.6%から平成22年には30.6%に上昇し、介護の担い手の男性シフトが続いている。その理由として40~50歳代の女性の就業率が高まり、共働き世帯が増加していることが考えられる。同居する主な介護者として「子の配偶者」(ここでは要介護者の息子の妻が主に想定される)が平成13年の22.5%から平成22年の15.2%へ大幅に減少しているのは、働く妻が増えて夫の親の介護まで手が回らない現実があるからだと思われる。<

また、年齢別では男女ともに50~60歳代が全体の5~6割を占めており、仕事を持っている中高年介護者が増えている。そのため介護を理由とする離職者(介護離職者)も増加している。内閣府「仕事と生活の調和レポート2011」(平成23年12月)によると、平成14年10月から平成19年9月までの5年間の介護離職者は54万4千人で、5年目の介護離職者は14万4,800人と1年目の9万2,500人の1.6倍になっている。介護離職者の8割以上は女性だが、男性比率は15.9%から17.7%に上昇している。このように多くの中高年男性にとって親の介護は妻任せにはできなくなり、自らが当事者になることを改めて認識する必要がある。

この“大介護時代”を乗り切るためには依然として家族や親族のインフォーマルな介護支援が必要だが、今後、男性の生涯未婚者は2020年には4人にひとりになると推計されており、世帯主年齢65歳以上の高齢世帯では4割近くが「ひとり暮らし」になる。ますます介護サービスの外部化が必要になるわけだが、わが国では介護者の処遇問題や外国人介護者の資格要件などに課題があり、今後の介護ニーズに応えるには介護人材不足が懸念される。また、長寿化に伴って認知症高齢者が増加しており、厚生労働省の推計では2015年には250万人に達する。特に認知症高齢者のケアは、長時間にわたる家族などによる日常生活のサポートが必要だ。

2060(平成72)年にはわが国はひとりのお年寄りを1.3人の現役世代が支える「肩車型」社会へ移行し、さらに「出生年次別平均きょうだい数」が1960年生まれ以降大幅に減少していることから、家族介護という点では中高年介護者の両肩には一層の負担がのしかかってくる。今後は高齢者の長寿化により介護者の高齢化が同時進行して老老介護が増え、介護は子育てと違いその負担は重くなる一方で終わりが予測できないのである。

この介護クライシスに対応するためには、中高年男性としては介護保険制度を熟知し、介護サービスを活用するノウハウを身につけることが不可欠だ。また、老親の自立生活を支援する住宅改造や近居なども有効だろう。一方、企業にとっては中高年男性が親の介護を理由に離職しなくても済むように介護休暇・休職制度を整備し、それを周知・活用できる組織マネジメントが重要だ。中高年男性が介護に直面したときの相談・アドバイス機関の設置など、突然やってくる老親介護に対するリスク管理として大災害やパンデミックに対するBCP(事業継続計画)策定と同様の対応が求められる。

これから高齢化が一段と進むなか、「仕事と介護の両立」のために柔軟で多様な働き方の実現が急がれる。企業の中枢にいる中高年男性にとって、そして中高年男性が組織の中枢で活躍する企業にとって、介護クライシスへの対応は喫緊の課題となっているのである。
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土堤内 昭雄

研究・専門分野

(2012年02月17日「研究員の眼」)

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