2012年01月25日

債務危機下の欧州生命保険会社-債務危機と低金利の下、ソルベンシーII規制の導入に備える欧州生保業界

松岡 博司

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 ・2008年から2009年の金融危機を無難に乗り切った欧州生保会社は、アイルランド、ギリシャに始まる債務危機問題が拡大する中、再び、厳しい環境に直面することとなった。

 ・懸念の第一は、保険会社が問題債務国の国債を大量に保有していること。スイス再保険は12月に発表したレポートの中で、問題が囁かれている5カ国の国債が50%減額された場合には、欧州全域の生損保会社が総額1430億ユーロ(1ユーロ102円で14兆5860億円)の損失を被る可能性があるという見込額を記載した。同社は、欧州保険会社は小規模な国の債務危機には十分な対応力を有しているが、スペイン、イタリアという大国の債務危機への対応までを求められるような場合には深刻な影響を受ける可能性があるとしつつ、それでも他の業界(銀行)に比べればうまくやっていけるだろうとしている。

 ・もう一つの懸念は低金利である。調達難から問題国の国債発行金利が上昇する一方で、欧州でも金融緩和が進み低金利環境が定着している。そのため、わが国生保会社が苦しんできたのと同様の逆ざやが欧州でも懸念される状況となっている。

 ・EUでは、2013年1月に導入するという目標をおいてソルベンシーIIの検討が進められてきたが、債務危機問題や低金利および複雑な規制体系整備の遅れといった諸般の事情を受け、ソルベンシーIIの導入時期が2014年1月以降に先送りされる気配が濃厚となっている。 

 ・債務危機がイタリアやスペイン等、大国に波及し、銀行危機にまで直結してしまうような事態にならない限りは、欧州の生保会社が危機に陥るような事態はなさそうであるが、不測の事態が起こらないとも限らない。帰趨を注意深く見守っていく必要があろう。




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