コラム
2012年01月17日

社会貢献の世界に飛び込む前に~敢えて回り道を勧める理由

常務取締役理事   神座 保彦

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先般の東日本大震災は心痛む出来事であったが、極限状況の中で被災地の方々は、行動規範や倫理性の点で非常に洗練された存在であることを世界に示した。他方、損害の少なかった地域からは、被災地の苦境に対して何らかの支援を行おうと多くの人々が立ち上がる姿があった。また、自らが被災地に赴くには至らないまでも、いわゆる「分相応」の領域を超えた募金協力を行うといったことで被災地支援の意思を示した方々も少なからず見受けられた。この時期、日本国民は日常生活の中で社会貢献を考え、実行した。

他方、被災地の今後の復興を成し遂げるに際して、そこに多く残された社会的な課題をビジネスのスキームを通じて解決する仕組みである「ソーシャルビジネス」あるいは「ソーシャルベンチャー」が処方箋の一つとして注目されている。経済産業省では、この1月に、東日本大震災後の復興に貢献するソーシャルビジネス27事例を集めた「ソーシャルビジネス・ケースブック」を作成し、公表している。

筆者は、旧来より「ソーシャルビジネス」あるいは「ソーシャルベンチャー」に関して情報発信をしてきた経緯もあり、若い方から社会貢献の世界への飛び込み方について相談を頂くことがある。特に、大学生・院生の卒業を控えた春先の時期には恒例となっている。

ところで、前述の「ソーシャルビジネス」あるいは「ソーシャルベンチャー」は同一組織において、社会貢献目標の追及と、ビジネスを通じた利益獲得を同時にマネジメントすべき組織である。したがって、その経営には、営利企業に匹敵する、あるいは、それ以上の組織マネジメントあるいはビジネスのスキルが必要とされる。また、その経営者としての「社会起業家」の存在も欠かせない。

この分野に関する情報発信の過程で筆者は様々な事例に接してきたが、そこで印象に残っているのは、社会貢献に対する高い志を持った人材がエネルギッシュに活動している半面、経営資源が手薄なこと、ビジネスあるいは組織マネジメントのノウハウの蓄積が不十分であること、それら要因もあってビジネスモデルが期待通りには機能発揮できにくいことである。これら組織が成功するには、時には営利企業との競争に打ち勝つことが必要とされる状況に直面するが、なかなか有効な戦略が打出せない状況も目の当たりにしてきた。

この経験を踏まえ、特に、ビジネス経験は無いものの社会貢献の高い志を持った若者が「ソーシャルビジネス」あるいは「ソーシャルベンチャー」に飛び込みたいと相談してきた際に、筆者は、回り道にはなるが少しの間ビジネスの世界での経験を積むことを勧めている。競合する営利企業で何が行われているかを知らずして効率的な組織運営や、ビジネスの場面での有効な戦略形成は期待し難い。また、多くの地域住民の支援を受けられる立場でビジネスの展開が出来るような場合であっても、「組織としての社会的責任」を果たすことが出来るマネジメントを確立し、組織体ではあっても良き市民として行動でき、経営状況のディスクローズなど正しくできる、といったことが社会貢献の組織にも当然に要求される時代に入っている。

経営資源の手薄な組織からすれば、若い元気な働き手は喉から手が出る存在であり、高い志を以てこの思いに応えるというのは一つの道である。しかし、社会貢献の世界でより大きな働きをしようと思えば、ビジネスの世界で少し回り道をしてでも基本的なスキルやマネジメント感覚を身につけてから社会貢献の世界に参入することも有効であるはずというのが筆者の偽らざる思いである。

常務取締役理事

神座 保彦 (じんざ やすひこ)

研究・専門分野
ソーシャルベンチャー、ソーシャルアントレプレナー

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