コラム
2012年01月11日

豹変しても良い人は誰か

金融研究部 年金総合リサーチセンター 年金研究部長   德島 勝幸

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日本銀行の総裁は、金融政策の変更に際して前言を容易に翻しても良いし、場合によっては、直前まで真逆のことを述べても良いとされる。一方で、政治家の場合には、前言と異なる方針を打ち出すと、やれ公約違反であるとか、マニフェストの完全履行を求めるといった非難が巻き起こることからもわかるように、言葉の重みとその位置付けは置かれている立場によって大きく異なる。資産運用の世界に長く身を置いていると、「君子豹変す」という本来の言葉を二重の否定形とした「君子豹変せざれば生き残り得ず」という経験則を身に沁みて感じることになる。生き残って行くためには、むしろ厚顔無恥に感じられるくらいの強靭さが必要なのが、金融界なのかもしれない。

バイサイドのエコノミストでは一般的に見られないが、セルサイドに属するエコノミストやストラテジストといった人々は、前言を容易にかつ頻繁に撤回・変更する。しかも、状況や環境に変化が見られたからと言う理由ならまだしも、時間が経過したからと言った簡単なものしか撤回・変更の理由が示されないことも少なくない。企業経営(最近では、地方公共団体経営でも)に関与した者なら、計画・実行・評価・改善というPDCAサイクルを繰返すことが、品質管理の有効な一つの手段とされることを知っていよう。ところが、セルサイドのエコノミストやストラテジストの場合は、前の見通しを誤った要因について十分な評価・分析を行わずに、新しい年になりましたと言って、また、新しい見通しを持って来る可能性が高い。セルサイドの場合には見通しの更新頻度が多く、新しい見通しの提供がセールス部隊による顧客訪問のツールとなっているために、殊更、顕著に目立ってしまう。結局、前回の見通しに含まれていた見誤りや誤った判断については、仮に分析を内部的に行ったとしても、外向けには公表しない。セルサイドのエコノミストやアナリストが、見通しを誤りましたとして投資家向けに謝罪することは、まずないのではないか。

このような実態を考えると、良く似た行動を取っている存在に気付く。ソブリン危機やサブプライム問題で耳目を集めた格付会社及びそこに属するアナリストたちである。歴史的に見ても、格付会社が以前に付与した格付けについて判断の誤りを認めたことは稀にしかない。分析システムへのデータ入力を誤ったといったものは散見されるが、財政赤字の将来見通しの計算を誤ったが結果としての格付判断には影響しないとして正当化する始末である。ところが、格付会社の常套手段としては、格付けの評価基準を変更したと表明することによって、具体的な個々の格付けを変更するものがある。結果として、複数ノッチの大きな格付変更に至った事例は、過去に何度も見られている。いわゆる投資適格レベルの格付けから、一気にジャンクと言われる水準まで引下げられるのだから、ユーザーである市場参加者から見れば、堪ったものではない。基準やポリシーの変更だという説明を受けても、市場参加者は直接内容に関与し得ず、リリースや電話会議において説明を受けたとしても、変更内容については狐につままれたような気分に陥ってしまうだろう。そもそも、従前の格付基準やポリシーを設定したのは格付会社であり、それを変更する必要があるという状況は、格付会社の従前の判断が誤っていたということなのではないか。

結局のところ、セルサイドのエコノミストやストラテジスト、格付会社のアナリストは、前言をいとも容易く撤回しなければ生き残れないのだと思う。そのことの是非を最終的に判断するのは、サービスを利用する市場参加者である。欧州のソブリン問題で、再び、格付会社の判断が批判を集めているものの、格付会社はそういったものと諦めざるを得ない部分も少なからず存在する。どんなに公的な監督・規制を強化しても、生き残るためには豹変せざるを得ない。しかし、ユーザーである個々の市場参加者が、見通しや格付基準の安易な変更といった「豹変」について、厳しく吟味するべきであろう。

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金融研究部   年金総合リサーチセンター 年金研究部長

德島 勝幸 (とくしま かつゆき)

研究・専門分野
年金・債券・クレジット・ALM

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