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- 両論併記 ~肝心なところを決めるのは誰?~
社会保障審議会は厚労相の諮問機関であり、医療保険部会は“医療保険制度”を※1、介護給付費分科会は“介護報酬”を担当する会議体で、制度改正や報酬改定前の一定期間、2週に1回程度の頻度で開催される。そこでは、制度の歪(ひず)みや綻(ほころ)びの修正や報酬改定の基本方針等が議論され、それぞれの所掌範囲の枠内で、決定事項や合意された方向性が取りまとめられる、という流れになる
さて、今回の両報酬改定にあたっての同部会・分科会の審議の取りまとめられ方はどのようなものだったか。大雑把に言えば、「肝心なところは全て両論併記であった」という印象である。
分かり易いところでは、医療で大きな論点となった「高額療養費と受診時定額負担※2」について、
○受診時定額負担は、(1)患者だけが負担するのではなく、健康な人も含めて保険料や公費で広く負担すべき、(2)受診抑制により病状が悪化するおそれがある等の理由から、導入に反対する意見があった。
○一方で、(1)医療費は保険料・公費・自己負担の組合せで確保する必要があるが、保険財政の現状を考えると、高額療養費の改善を保険料の引き上げで賄うのは困難、(2)財源を保険料に求める場合、負担の大部分が若年者に転嫁される等の理由から、受診時定額負担も一つの選択肢との意見もあった。
といった具合である。これでは、「これって議事録? 確か、「議論の整理」だったよね・・・」と思われても仕方ないだろう。議論の結果と言えば・・・、“決着した”と思う人もいれば、“まだ終わっていない”と思っている人もいる、というところだろうか。
以前から、両論併記という結論はあるにはあった。しかし、議論が尽くされても結論がでない中での苦肉の策であって、上記の取りまとめのように乱発されることはなかった。
確かに、一審議会が議論しなければならない論点が多すぎて十分な審議時間が取れない、医療・介護という重要な社会インフラゆえに意見や立場が多様化している、等の斟酌する事情もある。また、誰かの痛みが大きくてもどんどん物事を決めればいい、という訳でもない。しかし、安易な「両論併記」という決着は、“何も決められなかったこと”と同義である。
両審議会は(一応)一段落なのだろうが、肝心なところが決められない審議会の“審議の取りまとめ方”については、振り返りが必要ではないだろうか。
※1 人の生死に係るような終身保険、定期保険など生命保険を第1分野、自動車保険や火災保険などの損害保険を第2分野というのに続き、医療保険、介護保険など、その中間でどちらともいえないものを第3分野という。現在は生命保険会社、損害保険会社両方で扱える。
※2 受診時定額負担については、拙稿「反対できない改革案の危うさ ~“受診時定額100円負担”は決定事項か~」(6月16日) を参照
阿部 崇
研究・専門分野
(2011年12月29日「研究員の眼」)
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