コラム
2011年12月29日

両論併記 ~肝心なところを決めるのは誰?~

  阿部 崇

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12月21日診療報酬と介護報酬の改定率が決まり公表された。診療報酬は「+0.004%」、介護報酬は「+1.2%」である。改定率とは、これから決まる新しいサービス単価(点数・単位数)で算定されたときに、それぞれの保険給付費の総額が現行の給付総額に対してどのくらい上下する結果となるのか、という予測値である。改定率の結果は様々な評価があると思われるが、ここでは、改定率決定までのプロセス、特に両制度の課題や修正点の議論を担う社会保障審議会の医療保険部会・介護給付費分科会の“審議の取りまとめ方”に着目したい。
   社会保障審議会は厚労相の諮問機関であり、医療保険部会は“医療保険制度”を※1、介護給付費分科会は“介護報酬”を担当する会議体で、制度改正や報酬改定前の一定期間、2週に1回程度の頻度で開催される。そこでは、制度の歪(ひず)みや綻(ほころ)びの修正や報酬改定の基本方針等が議論され、それぞれの所掌範囲の枠内で、決定事項や合意された方向性が取りまとめられる、という流れになる
   さて、今回の両報酬改定にあたっての同部会・分科会の審議の取りまとめられ方はどのようなものだったか。大雑把に言えば、「肝心なところは全て両論併記であった」という印象である。
   分かり易いところでは、医療で大きな論点となった「高額療養費と受診時定額負担※2」について、

○受診時定額負担は、(1)患者だけが負担するのではなく、健康な人も含めて保険料や公費で広く負担すべき、(2)受診抑制により病状が悪化するおそれがある等の理由から、導入に反対する意見があった。
○一方で、(1)医療費は保険料・公費・自己負担の組合せで確保する必要があるが、保険財政の現状を考えると、高額療養費の改善を保険料の引き上げで賄うのは困難、(2)財源を保険料に求める場合、負担の大部分が若年者に転嫁される等の理由から、受診時定額負担も一つの選択肢との意見もあった。
(社会保障審議会医療保険部会「議論の整理」平成23年12月6日)

といった具合である。これでは、「これって議事録? 確か、「議論の整理」だったよね・・・」と思われても仕方ないだろう。議論の結果と言えば・・・、“決着した”と思う人もいれば、“まだ終わっていない”と思っている人もいる、というところだろうか。
   以前から、両論併記という結論はあるにはあった。しかし、議論が尽くされても結論がでない中での苦肉の策であって、上記の取りまとめのように乱発されることはなかった。
   確かに、一審議会が議論しなければならない論点が多すぎて十分な審議時間が取れない、医療・介護という重要な社会インフラゆえに意見や立場が多様化している、等の斟酌する事情もある。また、誰かの痛みが大きくてもどんどん物事を決めればいい、という訳でもない。しかし、安易な「両論併記」という決着は、“何も決められなかったこと”と同義である。
   両審議会は(一応)一段落なのだろうが、肝心なところが決められない審議会の“審議の取りまとめ方”については、振り返りが必要ではないだろうか。

※1 診療報酬については、別途「中央社会保険医療協議会(中医協)」が所掌している
    ※2 受診時定額負担については、拙稿「反対できない改革案の危うさ ~“受診時定額100円負担”は決定事項か~」(6月16日) を参照

阿部 崇

研究・専門分野

(2011年12月29日「研究員の眼」)

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