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特例水準解消後の年金スライドの課題-「本来のスライド率」の再検討も-
保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
■見出し
1--------年金のスライドをめぐる現在の議論
2--------「本来のスライド率」に内包されている問題
3--------今後の議論に向けて
■introduction
2011年7月に閣議報告された社会保障・税一体改革成案(以下、成案)には、「マクロ経済スライド」の再検討が盛り込まれた。マクロ経済スライドは2004年改正で導入された年金財政改善策の大きな柱であり、おおまかにいえば、年金財政が健全化するまで少子高齢化にあわせて給付を削減する仕組みである。しかし、現実にはデフレの継続によって旧制度の経過措置(いわゆる特例水準)の解消が想定どおりに進まず、マクロ経済スライドが発動されずに年金財政の健全化が遅れたため、結果として2009年の財政検証では将来の給付が2004年改正時の想定より低下する見通しになっている。
そこで成案を契機に、マクロ経済スライド見直しの議論が活発化している。第1の課題である未発動に対しては、物価の動向などに影響される自動発動ルールを改め、3年間など期限を明示して(いわば手動で)特例水準を解消する方法が、厚生労働省から提案されている。基礎年金の国庫負担を削減したい財務省の意向も相まって、社会保障審議会年金部会や行政刷新会議では特例水準の早期解消を求める意見が多数を占めており、来年度の実施に向けた政府・与党間の調整が今後予想される。
しかし、マクロ経済スライドを発動するには特例水準の早期解消だけでは不十分である。現在のマクロ経済スライドには、デフレ時に年金が減りすぎないようにする配慮から、マクロ経済スライド適用前のスライド率(本来のスライド率)がマイナスの場合にはマクロ経済スライドを適用しなかったり、本来のスライド率のプラス幅がマクロ経済スライドの削減幅より小さい場合はマクロ経済スライド適用を抑えるという、いわゆる「名目下限ルール」が設けられている。名目下限ルールが存在すると、特例水準が解消されてもデフレ下ではマクロ経済スライドが適用されず年金財政の健全化が進まないため、厚生労働省は名目下限ルールの撤廃を第2の課題として挙げている。
03-3512-1859
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