2011年12月01日

高齢者の潜在力を引き出すアートのポテンシャル―アートが拓く超高齢社会の可能性

吉本 光宏

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■見出し

1――全国に広がる高齢者とアートの出会い
2――各地で広がる高齢者の芸術活動
3――アーティストやアートが引き出す高齢者の潜在力
4――アートが拓く超高齢社会の可能性

■introduction
海道襟裳岬から20kmほど西北に位置する浦河町。その総合文化会館の稽古場に、毎週土曜日、朝9時半に三々五々集まってくる9人のお年寄りたちがいる。最高齢は89歳のキヌエさんだ。「今日も準備体操から始めましょうか」とラジカセのスイッチを入れると、水戸黄門のテーマソングが流れ出し、オリジナルの準備体操が始まる。彼らは高齢者演劇集団「座・たくあん」の皆さんである。

劇団名の「たくあん」は、大根役者が年齢を重ねるほどに味が出ることを願ってつけられた。劇団員の平均年齢は83歳、少し身体の不自由な方もいるが、ゴローちゃん、のぶ子ちゃん、はつえちゃん、ミッチ…とファーストネームで呼び合う。稽古場には笑いが絶えず、とにかく元気だ。

浦河町の人口は約1万4,000人、高齢化率は26%で独居老人も多い。2002年の旗揚げからこの劇団の活動を支えてきた浦河町社会教育課の砂子沢登さんは、我々は「高齢者のケアを施設型の福祉に頼りすぎているのではないかと思う」と、これまでの劇団の活動を振り返る。座・たくあん以外にも高齢者演劇は全国に広がり、シニア演劇Webというサイトには、北海道から九州まで30を超える高齢者劇団がリストアップされている。演劇に限らず、高齢者の芸術活動は音楽やダンスにも広がる。

高齢者とアートの関係は、自ら演じたり、歌ったりするだけではない。福祉施設にアーティストが出向き、お年寄りを対象にワークショップという参加・体験型の活動を行う取り組みも徐々に増えてきた。杉並区を拠点に活動するNPO法人芸術資源開発機構(ARDA)は、1999年に高齢者施設へのアートデリバリー事業を立ち上げた。認知症の高齢者を対象に、美術館で絵画の鑑賞プログラムを実施しているのはNPO法人アーツアライブである。対話型の絵画鑑賞を通して雄弁に語り始める高齢者の反応に、介護士の方々が驚くことも少なくないという。

演劇や音楽を始めた高齢者の多くは、楽しくて辞められなくなった、第二の人生で新たな生きがいを見つけた、人に見てもらうのが嬉しい、と口を揃える。高齢者施設では、アーティストのワークショップに参加して、リハビリでは上がらなかった腕が上がった、車いすに座りっぱなしだったおじいちゃんが、気がついたら立ち上がっていた、など、周囲が驚くようなこともしばしば起こっている。

それらの事例を俯瞰すると、高齢者の芸術活動は趣味や娯楽という範囲を超えて、アートが高齢者の新たな潜在能力を引き出しているのではないか、さらには、現在の高齢者福祉に対する考え方に大きな疑問を投げかけているのではないか、とさえ思えてくる。

本稿では、高齢者が自ら芸術活動に取り組んだり、アーティストのワークショップやアートを体験したりする活動を取り上げ、関係者への取材や活動のエピソードから、アートが拓く超高齢者社会の可能性を考えてみたい。
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吉本 光宏 (よしもと みつひろ)

研究・専門分野

(2011年12月01日「ジェロントロジーレポート」)

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