コラム
2011年11月28日

仕事が紡ぐ物語~「マダム」の工場移転

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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「マダム」の直営工場では、(1)~(4)のような福利厚生が適用されている。(1)ランチの提供(お昼はカレーをはじめとするランチを皆で食べる)、(2)残業ディナーの支給(残業時にはバナナ、卵、パンなどが支給される)、(3)企業ローンの実施(急な出費が必要なときに会社から無利息でお金を借りることができる)、(4)ピクニックやクリケット大会などのイベントの開催。

筆者は人事管理の研究者なので、ついついこういう所に目がいってしまう。(1)~(4)は、戦後の日本企業の家族主義的な福利厚生を彷彿とさせる内容であり、実際この工場からは「第2の家」のような暖かさが伝わってくるが、「マダム」の工場があるのは日本ではない。バングラデシュにあるこの工場は、この度ランプラからヘマエプールへと移転する。2008年12月に6名でスタートした工場も、スタッフが増え、首都ダッカから離れた静かな場所に、倍以上の大きさの工場を建てて移転することになった。

「マダム」は大学卒業後、アジア最貧国といわれていたバングラデシュに渡り、2006年、24歳のときに「マザーハウス」を起業した山口絵理子氏である。工場では、スタッフから「マダム」と呼ばれているという。

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というのがマザーハウス起業時の夢。「いつか東京、ミラノ、パリ、ニューヨーク、颯爽と歩く女性がもっているかわいいバッグの中に『Made in Bangladesh』のラベルがある、そんなワンシーンの実現に人生の全てを賭けたいと思いました。」という「マダム」は、何度失敗してもあきらめず、その国の素材を使ったその国でのものづくりにとことんこだわって、とうとう数々のヒットシリーズを世に送り出し、着実にファンを増やしてきている。かくいう筆者も「マダム」の最初の手記である『裸でも生きる―25歳女性起業家の号泣戦記』(2007年、講談社)を読んで以来マザーハウスのファンであり、人事管理の研究者としても、意欲ある人材が引き寄せられるこの企業に注目している。

昨日11月27日に開催された新工場での移転パーティーは、希望すれば現地ツアーなどで顧客も参加できるものであった。筆者は残念ながら参加できなかったが、このタイミングで、10年近く持ち続けた米国ブランドのビジネスバックとサヨナラをし、彩りのグラデーションが銀杏の葉をイメージさせるICHO series『Made in Bangladesh』のバックに買い換えた。牛革素材なのに軽く、柔らかくて使いやすい、そしてとにかくデザインがかわいい。

疲れていたはずなのに、新しい買い物に心躍りながら帰路につく際、外資系証券会社を退職し、創業時から「マダム」の強力なパートナーとしてマザーハウスを育ててきた副社長の山崎大祐氏の言葉を思い出した。「本来、全てのモノには歴史があり、文化的背景があり、そして"ストーリー"があります。」

もちろんバック自体を気に入って購入したわけだが、そのバックの背景にあるマザーハウスの物語に思いを馳せると、さまざまな人の手を経て、さまざまな思いをのせて、今自分の手元にあるバックのことがより愛おしく思える。また、せめてこのバックを持っている時ぐらいは、疲れた様子を見せず、「颯爽と」歩かねば、というちょっとしたプレッシャーも感じる。

工場のディレクターであるMohammad Mainul Haq(通称モイン)氏はいう。「我々は自分達とお客様を別々だと思っていない。(中略)我々のお客様は何かを買おうとするとき、そのストーリーを知ろうとしてくれる。(中略)そのことは我々にとって非常に大きなモチベーションになる。」

工場には、旅行会社が主催するツアーで定期的に顧客が来訪し、顧客はスタッフと一緒に、素材の調達・デザイン・制作を経験できる。このツアーを通じて、顧客はバックの背景にあるストーリーをより深く知る。そして、このツアーは何より工場のスタッフのパワーの源になっている。

最後に一番言いたいことを一言。山口さん、山崎さん、モインさん、マザーハウスの皆さん、マトリゴール(ベンガル語でマザーハウスという意味)工場の移転、おめでとうございます!。

※本文中の引用は、マザーハウスHP(http://www.mother-house.jp/)より。

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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

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