2011年11月25日

検討続く保険会計基準の基本課題

  荻原 邦男

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1997年に開始された保険契約に関する会計基準作りは15年を要している。2010年7月の公開草案の公表に続き、本年6月には会計基準を確定する予定であったが、関係者の努力にも拘わらず、実現していない。2012年上半期に「レビュードラフトの公開ないし公開草案の再公開」を行う旨の予定が宣言されているが、従来示されていた基準確定時期目標は今や明示されていない状況である。
当初は公正価値による保険契約の評価(負債額の決定)が目標に挙げられた。2000年にJWGと呼ばれるIASB(国際会計基準審議会)の非公式グループが、「金融商品は全面的に公正価値評価すべし」との方針を世に問うたこともあったほどで、当初は「出口価値」(第三者への移転価格)と呼ばれる公正価値評価を中心に議論が始まったのである。
しかし、その後、単純な公正価値評価路線は修正せざるを得なくなった。これには、(1)保険契約は一般的な金融商品と違って取引する市場がなく、市場価格が存在しないこと、(2)収益認識プロジェクトなど他の基準を巡る議論の影響、(3)金融危機を経て公正価値評価に一定の再評価が行われたこと、などの要因があげられるだろう。
公開草案に述べられている現在の暫定案は、(1)保険契約の負債評価にあたって足下の金利環境等を反映するという意味の公正価値的評価と、(2)その結果発生するはずの契約当初の利益を、残余マージンと呼ばれる項目に暫定的に計上することで利益計上を排し、それを事後的に償却(利益計上)していくという繰延思考、との折衷的なものとなっている。
そして現時点における最大の論点のひとつは、利益の変動性を緩和するための「その他の包括利益」への計上を巡る議論である。足下の金利環境に応じた評価利率を使用して負債評価を行うと、評価額は金利動向により大きく変動する。その一方で、資産側とりわけその多くを占める債券の評価は原則として償却原価法によるため比較的マイルドな動きとなる。従って、負債の変動が各年度の損益を大きく変動させ、ビジネスの実態をよく表すことにならない、という指摘である。これに対応するため、負債評価額の変動のうち評価利率の変動による部分は、当期損益ではなく、「その他の包括利益」に計上すべきである、というのが主として業界側から提示されている主張であり、関係者に一定の理解を得つつあるようだ。
これは保険会社の利益測定とその表示に関係する基本的な論点であり、IASBは今後本格的に検討することになるものと思われる。このほか積み残しになっている課題もあり、検討や調整に時間を要するだろうが、関係者間の慎重かつ十分な議論を望みたい。

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