コラム
2011年10月27日

利他的行動と利己的行動

北村 智紀

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自分を犠牲にして他人のために行動することを利他的行動、自分自身のために行動することを利己的行動と言う。人々が利他的あるいは利己的に行動する程度のことを社会的選好と言う。東日本大震災では多くの義援金やボランティアが集まった。これは困っている人を助けようとする利他的行動の表れだと言える。

人々の利他的行動の程度を測ろうとする実験経済学の伝統的な手法にディクテーター・ゲーム(Dictator game)がある。

これは、お互いを知らない二人のうち、一人に本日の報酬が渡され、渡された人はその中から自分ともう一人(相手方)の報酬を決めるという実験である。自分が得る富を重視する経済学の理論に従えば、相手方には報酬を分けず、全て自分でもらうことが合理的だとされる。

しかし、人々の実際の行動は、5~6割を自分の報酬とし、残りを相手方の報酬にする傾向がある。この行動は、利他的行動、公平性、あるいは、報酬の2分割志向などとされる。

この利他的行動の程度は、時や状況によって変わることも知られている。例えば、ただ渡された報酬を二人で分けるのではなく、自分が働いて得た報酬を知らない相手方と分けることになると、相手方に渡す分は減少する。

これは自分のお金だという意識が強まるためだと考えられる。あるいは、一定の報酬を自分と相手とで分けるのではなく、それに加えて、相手からお金を取れる状況になると、相手に報酬を与えるのではなく、相手からお金を取る行動が見られることが知られている。さらに、リスクのある状況では、とるリスクの大きさと利他的行動には関連性があるとされる。

東日本大震災を機に多くの人々が利他的行動を示したが、これが本来の姿だろうか、あるいは、震災という特殊事情のためだろうか。前者であることを願いたい。

一方で、利己的行動が悪いとされることは望ましくない傾向であろう。各人が幸せになりたいというのは当然の想いであろうし、リスクに対する報いが自分にあってはじめて、リスクをとることができよう。

自分のために頑張ることが、結果的に社会全体のためになると考えることもできる。そうすると、幅広い社会的選好が受け入れられることが、人々を豊かにする土壌なのかもしれない。
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