コラム
2011年09月28日

3.11報道で気づくメディア・リテラシーの重要性

松村 徹

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最近、民放のテレビ番組はほとんど見ない、新聞購読は止めた、という人が周りに多い。インターネット利用の普及で、パソコンやスマートフォンを使えば、電子化された全国紙は当然ながら、世界中のさまざまな情報にアクセスできる時代を映す事象といえる。もっとも、ネット上の情報は玉石混交で真偽が定かではないものも多いだけに、事実を引き出して正確に伝える取材力や分析力を持つテレビや新聞などの既存メディア(マスコミ)の存在意義もあるはずだ。しかし、東日本大震災による福島原子力発電所事故を契機に、日本のテレビや新聞などが伝える情報の信頼性が大きく揺らぎ、マスコミ報道を地域メディアや海外メディアの報道、ブログやツイッターなどでチェックすることが当たり前になってしまった。

これまで原発の安全神話を流し続けたことへの批判はもちろんあるが、今回の原発事故や放射能汚染について、マスコミが伝えなかった、あるいは伝えようとしなかったと思われる重要な情報の多さが問題だ。過去に経験のない重大事故で混乱していた時期に、正確な情報を把握・分析できなかったのは仕方がないとしても、その後も、平均的なリテラシー(読み書き能力)を持つ国民が知りたいと思うことを取材する力、おかしいと感じることを関係者に突っ込んで聞き出す力が弱いのはなぜだろうか。一方、政治に関しては、重要とは到底思えない揚げ足取りや政局を煽るような報道スタイルは今回の国難に際しても変わらず、国民の政治不信は極まった。しかし、原発事故対応や放射能汚染対策で政治家や官僚、電力業界などを厳しく批判しても、マスコミ関係者から反省の言葉や自己批判はほとんど聞かれない。日頃どっぷり浸かった“クラブ“や“村”の常識や物差しが、一般社会と大きくずれてきているのではないだろうか。

もちろん、われわれ自身も、原発報道に限らず、マスコミが流す情報をこれまで安易に受け入れてきたわけで、そのリテラシーの未熟さを反省すべきである。いずれにしても、さまざまなメディアから流れる膨大な情報について、発信者・媒体の意図や内容の真偽・偏りを見抜き、情報を選別して適切に利用するためのメディア・リテラシーが、世界規模で広がったインターネット時代を生きるために欠かせない能力のひとつになったのは確かだろう。ただし、高齢者を中心に、日常の情報源がテレビや新聞だけという人々も少なくないため、メディア・リテラシー格差の拡大も懸念される。それだけに、事実を正確に広く伝えるという既存メディアの存在意義や社会的責任は、むしろ高まっているといえる。

証券化以前と比べて情報量が格段に増えた不動産市場においても、インターネットを通じて情報が瞬時に広がり、海外の投資マネーの動きが市場に大きな影響を与えるようになっており、市場動向を正確に把握するためのメディア・リテラシーの重要性が高まっている。特に、われわれのような調査研究機関では、企業や人々の意識や行動の本質的な変化を見逃さないため、既成概念や○○神話から距離を置き、情報を客観的に分析する能力が求められる。もちろん、独自の情報収集やデータ収集も欠かせない。今年公表を始めた東京のオフィスレント・インデックスは、そのような問題意識もあって、市場実態をより反映できるよう実際の成約賃料データを基に開発したもので、今後も改良を続けていきたいと考えている。

(注)不動産経済研究所 『不動産経済ファンドレビュー』 2011年9月25日号に寄稿した内容を加筆修正したものです。
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