2011年09月22日

イノベーション促進のためのオフィス戦略 ~経営戦略の視点からオフィスづくりを考える

社会研究部 上席研究員 百嶋 徹

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■要 旨

1.グローバル競争が激化する下で、従業員の創造性を企業競争力の源泉と認識し、それを最大限に引き出しイノベーション創出につなげていくためのオフィス戦略の重要性が高まっている。不動産を重要な経営資源に位置付け、その活用、管理、取引に際し、CSR(企業の社会的責任)を踏まえた上で企業価値最大化の観点から最適な選択を行う経営戦略である、「CRE(企業不動産:Corporate Real Estate)戦略」においても、オフィス戦略の位置付けは重要である。
2.オフィス環境は、従業員のモチベーションやワークスタイル、社内のインフォーマルなコミュニケーションや人的ネットワークの質を左右し、これらの質が向上すれば、従業員間のコラボレーションの促進などを通じて創造性が引き出され、業務の生産性や品質の向上、スピードアップにつながり、人的資源管理(HRM:Human Resource Management)にプラスの効果をもたらす。また、働きやすいオフィス環境を提供することは、企業のブランド価値を高めて優秀な人材の確保・定着につながりやすく、将来の人事採用にもプラス効果が期待される。このように、従業員のモチベーションや社内のコミュニケーションに配慮し働きかける施設環境の整備など、オフィスの空間価値に関わる意思決定は、企業価値向上にとって極めて重要である。
3.先進的なオフィスづくりにおいては、従業員間の信頼感やつながり、すなわち「企業内ソーシャル・キャピタル」を育む視点、経営トップの戦略意図や経営理念を象徴的に示す視点、省エネ・温暖化ガス削減を抜本的に進める環境配慮型不動産の視点が重視されている。本稿では、先進的なオフィスづくりの事例として、米ヒューレット・パッカード(HP)、ソニー(株)、(株)りそな銀行および(株)りそなホールディングスを取り上げた。
4.効率性に偏重した企業経営の下では、創造的なオフィスづくりは難しい。従業員が気軽に集まってコミュニケーションを交わせる共用スペースは、効率性のみを徹底すれば、仕事に関係のない無駄なものとみなされて撤去され、社内の活気や創造性が失われるだろう。創造的なオフィスづくりには、経営資源にある程度の余裕、いわゆる「組織スラック(slack)」を備えておく視点が不可欠だ。創造的なオフィス空間は、従業員の意識やワークスタイルの変革につながることで効果を発揮する。したがって、創造的なオフィス空間を活かすためには、柔軟で裁量的なワークスタイルが許容されることも求められる。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営

経歴
  • 【職歴】
     1985年 株式会社野村総合研究所入社
     1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
     1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
     2001年 社会研究部門
     2013年7月より現職
     ・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
     
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
     ・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
     ・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
     ・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)

    【受賞】
     ・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
      (1994年発表)
     ・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)

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