コラム
2011年08月04日

流れるプールと子ども手当

生活研究部 主任研究員   松浦 民恵

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小1の次女が「小学校で流れるプールに入ったよ」という。今どきの学校のプールは流れるのか!と驚愕していると、中学校にも「流れるプール」があるらしく、中1の長女が仕組みを説明してくれる。先生がピーって笛を吹いて右回り~っといえば全員で右に進んで、左回り~っといえば逆に進むのが「流れるプール」。なるほど、人力なので設備投資は不要だし、特に逆回りのときは結構盛り上がるらしい。

政権交代にともない2010年度から導入された子ども手当だが、2012年度から(支給額は2011年10月から)大幅に見直されることが概ね固まったようである。現在は世帯主の所得水準に関わりなく、中学生までの子ども1人当たり月13,000円の子ども手当が支給されるが、見直し後は、世帯主の税引き前年収960万円程度という所得制限がかけられたうえで、0~3歳未満が月15,000円、3歳~中学生が月10,000円、第3子以降の3歳~小学生については15,000円の支給となる見通しである。

子ども手当は、政策を継続的に推し進めていく「流れ」を作れなかった。現実は学校のプールのように、先生の笛で皆が同じ方向に進んでくれるわけもなく、政策に対して多くの国民の納得を得ることによってしか、「流れるプール」を作ることはできない。

子ども手当が「流れるプール」になれなかったのはなぜか。次代を担う子どもの育成のために応分の投資をしてこなかった過去の政策の流れを、逆回りにしようとした姿勢そのものは、評価されるべきだと考える。しかしながら、そもそも財源の裏付けのない政策に継続性は期待できないし、子ども手当の支給が少子化対策である(子ども手当によって子どもが増える)という主張にも必ずしも説得力がない。また、子ども手当を継続するために、少子化対策としてはより緊急度が高いと考えられる、困難な状況にある子育て世帯への支援や、親が就労するうえで不可欠な保育施設の整備の財源が制約されることも懸念された。このような面で、子ども手当は、その有効性に対して評価が分かれる政策であり、その点において筆者自身も懐疑的であった。

また、子ども手当のみならず、少子化対策はそもそも支持が得られにくく、大きな「流れ」になりにくいという残念な現状もある。目の前の危機は理解を得られやすいが、少子化が進行することによって確実に訪れる将来の危機を、現実のものとして理解してもらうのはなかなか難しい。また、少子化対策の重要性をより実感しやすい子育て世帯の親や子どもが、世論の少数派であることも、少子化対策の流れを阻害する要因だろう。

そうはいっても、少子化対策を進める「流れ」を、何とか継続的に作っていかなければならない。子ども手当と同じ轍を踏まないためには、まずは財源の裏付けが不可欠であり、政策の内容に対して国民の納得を得ることが重要である。内閣府の資料によると、平成23年度の子ども・子育て施策関係予算の総額は3兆8,974億円となっているが、政策として優先度が高いと考えられる、より困難な状況にある子どもや子育て世帯に対する支援や、施設整備に多くのコストを要する保育サービスに関する予算は、現状の深刻さに対して、付与予算の水準が大きく下回っているようにみえる。

現在、社会保障制度の改革などに合わせて、消費税の引き上げに向けた議論が行われているが、消費税が引き上げられるとすれば、その一部は、こうした優先度の高い少子化対策の補強に振り向けるべきだと考える。少子化対策の財源が他の社会保障のそれと混在していては、前述のような事情から、少子化対策の財源が縮小されていく懸念が強い。他の社会保障にも突発的な危機対応にも浸食されない、確固たる安定的な財源を、消費税の引き上げ分のなかからも、少子化対策のために確保すべきである。

次代を担う子ども達のためにコストを振り向けられない国に、未来があるとは思えない。「安心して子どもを生み・育てられる国、安心して子どもが生まれ・育つことができる国」づくりに向けて、何とか社会で「流れるプール」を作れないだろうか。
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生活研究部   主任研究員

松浦 民恵 (まつうら たみえ)

研究・専門分野
雇用・就労・勤労者生活、少子高齢社会

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