コラム
2011年07月29日

報酬改定は“ツウシンボ”か、“ラシンバン”か

  阿部 崇

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6月の介護保険改正法の成立を経て、いよいよ2012年4月の報酬改定に向けた検討がスタートした。具体的な単位数(サービス単価)の上げ・下げや新設・廃止について、昨日28日からの社会保障審議会の介護給付費分科会で議論され始めている。
   しかし先の法改正では、財源構成そのものの見直しはもちろん、被保険者の範囲やサービス利用の仕組み等に踏み込んだ修正はほとんど行われなかったので、従前の枠組みの中で、「限られた財源で増加するサービス需要に対応しなければならない」という従前と変わらぬ難題にあたることが予想される。6年に一度の診療報酬との同時改定であることから“何となく”期待されてきた2012年改定であるが、その内容は総じて“厳しい”ものとなることは必至であろう。
   今後の作業は、これから示される介護事業経済実態調査の結果をはじめ、厚生労働省内で異なる施策を担当する各部署の意見や、関係団体等からの要望などを睨みつつ、さまざまな方向にバランスを取りながら進められていくだろう。改定内容詳細の評価は追々触れていくとして、本稿では報酬改定“そのもの”が持つ意味合いに着目したい。

報酬改定は介護サービスの単価の水準を3年ごとに見直す作業である。介護保険に携わるサービス事業者や施設の多くは、この単価に月ごとのサービス回数(日数)と利用者数を掛けた介護収入を主な収入源として経営を成り立たせているため、継続的かつ安定的にサービス提供を行うという事業採算の観点から適正水準にサービス単価を調整することが改定の主たる機能である。
   もっとも、報酬改定の持つ意味合いはこれだけに止まるものではなく、向こう3年間の介護保険制度を“この方向に引っ張る”ための「手段」としてのもう一つの重要な機能を持つ。つまり、それを算定するサービス事業者や施設の行動原理を利用してさまざまな施策が推進される。ごく簡単に言えば、単価が新設されればそのサービスを提供するようになり、単価が上がればより多くの人的物的資源を投入しそのサービスを拡大する、逆に単価が下がればそのサービスの提供は縮小していく、これらの作用によって制度を形づくるのである。報酬改定が第二の制度改正と言われる所以はここにある。
   今後半年間の議論の場でサービス事業者や施設の代表者からは、「これだけ役に立ってきたのだから(評価して欲しい)」、「こんなに頑張ってきたからには(単価を上げて欲しい)」という主張があるかもしれない。しかし、役に立ってきたことや頑張ってきたことについては実際のサービス提供の場面で継続的にサービスが利用される、あるいは、新規利用者が拡大するといった形で評価されるものであって、役立ちや頑張りそのものが報酬改定の根拠とされるべきではないだろう。なぜなら、報酬改定はそのネーミングからサービス事業者や施設への報酬水準を決めに行く作業と考えられがちだが、本来的には要介護者への保険給付水準を調整する作業であり、あくまでもサービス事業者や施設の報酬水準の変動は結果としてもたらされるものだからだ。

報酬改定は向こう3年間の介護保険制度の“ラシンバン”であって、過去3年間のサービス事業者や施設の“ツウシンボ”ではない。厳しい改定の環境ではあるが、“この方向に引っ張る”を実現に近づける改定作業になることを望む。

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