コラム
2011年07月08日

ストレステストは、どんなテスト?

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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先日、期末テスト真っ最中の愚息から「ストレステスト」とはどんな試験かと聞かれた。「どんなに批判を受けても、しぶとく続けられるかのチェックだ」と答えようかと思ったが、「そんなことはいいから、勉強しろ」と一蹴しておいた。

先日の首相指示で出てくるまで、ストレステストという言葉がこれほど一般に認知されるようになるとは思ってもみなかった。新聞記事を検索してみたところ、EUでの原発のストレステストに関する記事が今年5月にいくつか見られるものの、ほとんどの記事は首相指示を受けて今年の7月6日以降に出されたものであった。これらの記事では、ストレステストを「安全検査」や「耐性調査」などと紹介されている。昨年以前に「ストレステスト」を使った記事を探してみると、昨年の夏頃に欧州の金融機関に関する記事や一昨年の初夏に米国の金融機関に関する記事が多数みられ、筆者が検索した限りではそれ以前に「ストレステスト」という言葉を使った記事はほとんどみられなかった。

金融機関に対する「ストレステスト」は、「金融検査」や「健全性を点検する資産査定」と紹介されている。今回の震災では、被災していない工場でも被災地から部品が調達できず操業できない事態が発生したが、資金の流通に関わる金融機関が破綻した場合も同様に資金の流通が滞る事態が懸念される。そこでリーマンショックや欧州諸国の財政危機を受けて、通常の整合性を超えた危機的状況が起こった際に金融機関が自己資本不足に陥る可能性を事前に測定し、必要があれば自己資本の増強を促す仕組みが「ストレステスト」や一連の対応である。日本の生命保険会社に対する健全性基準が見直されて各社が資本を増強したのも、その一種とみることができよう。

見方が分かれると思うが、公的年金でも一種のストレステストが実施されていると筆者は考えている。年金財政の将来見通しでは複数の経済や人口の見通しが使われており、近年は3とおりの経済見通しと3とおりの人口見通しを機械的に組み合わせた9とおりの試算結果が示されている。将来におけるデフレの発生が織り込まれていないなど不十分との指摘もあるが(別稿参照)、この9とおりの試算の存在ですらあまり認識されていないのが実情である。

震災や原発の問題を機に、ストレステストの実施や手法の高度化だけでなく、リスク情報の伝え方や受け取る側のリテラシーの向上も期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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【ストレステストは、どんなテスト?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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