2011年06月24日

電力不足問題と日本の横並び体質

櫨(はじ) 浩一

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今回の東日本大震災では、日本社会が抱えている「強い現場と弱い本部」(藤本隆宏東大教授)という問題がしばしば顔を出した。それは、現場の対応力は優れていて非常に困難な状況でも高い士気と規律が維持されるのに対して、本部が現場の力をうまく統合できずに時として組織的な力を発揮できないことがあるというものだ。原子力発電所の事故による電力不足問題でも、3月から4月にかけて関東地方で実施された計画停電が社会に大きな混乱を引き起した。一方で、個々の家庭や事業所などでは自主的に節電が行われており、このところの電力需要は前年をかなり下回って推移している。ここにも、末端の対応力は高いにも関わらず全体計画が下手だという現場と本部の問題がある。
さて、電力不足問題の背景にはもう一つ日本社会が昔から抱えている問題がある。それは、我々に横並びで行動するという体質があることだ。その原因をたどっていくと日本の農耕文化に行き着くという話を読んだことがある。農業では皆が協力して作業する必要があるため、集団行動や協調性が重視される社会になった。一方、狩猟社会では誰かが既に狩に行った場所にはもう獲物がいないので、皆が違った方向に行くことが必要だから独自性が重視されるようになったというのである。隣近所が種をまき始めたら自分も種まきをした方が安全で、一人だけ周りと違うことをすると失敗することが多い。周囲と同じように行動するという横並びの体質は農耕に由来しているというのだ。
さて、単純化してしまえば、今夏の電力不足問題とは、電力消費のピークを電力供給能力以下に押えないと大規模な停電が発生する恐れがあるということだ。利用を分散して電力需要の少ない時間帯の使用量を増やし、需要のピークを低くすることができれば経済に大きな影響を与えずに済む。実は日本経済には、我々の横並び行動のために需要が短期間に集中してしまい非常に高いピークを作るという問題があちこちにある。大都市では朝晩の通勤時間帯にはバスや電車が非常に込み合うが、日中や夜間は運転本数が少なくても充分座席に座れる状態だ。観光地でも、ゴールデンウィークや夏休み、正月休みは大混雑で宿泊施設の予約を取るのも大変な状態だが、それ以外の時期は利用客が少ない。交通機関は通勤・通学のラッシュに合わせた輸送力が必要になり、ピーク時以外には使用されない車両や設備が増えてしまうし、レジャー施設は平均的な稼働率が低いので料金を高く設定しないと収支が合わない。
皆が一斉に働き初めて一斉に帰宅するという社会は効率的に思えるが、反面でピーク時に対応した供給力を確保するために、普段は使わない膨大な設備を保有しなくてはならないという非効率も生んでいる。電力もピークに合わせて膨大な発電設備を作ってきたが、需要の波を平準化できれば発電能力はもっと少なくても足りるはずなのだ。大震災で生まれた問題を単にその場しのぎで乗り切るのでなく、社会のあり方や働き方をもう一度考える契機にできれば、日本社会をもっと良いものにできるのではないだろうか。

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