コラム
2011年05月19日

震災リスクの顕在化とマイホーム志向の変化

  松村 徹

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東日本大震災の1ヵ月後に実施した不動産関係者へのアンケートで、「震災を契機に、顧客や利用者の選別が厳しくなる、あるいはニーズが弱まると思われる不動産タイプ」について聞いたところ、オフィスビルや戸建住宅を押さえて分譲マンションが最多となった。マンションは戸建住宅に比べて物理的な被害は小さかったものの、地震や停電によるエレベーターの停止、高層マンションが林立する湾岸地域で多くみられた液状化現象、さらに消費マインド悪化に伴う購入意欲の減退などが意識されたものと思われる。特に、地上40階以上の超高層では長周期の揺れが長く続いたこともあり、人気の高かった湾岸タワーマンションのイメージ悪化は否めない。埋立地であっても地盤改良を施して地中の支持基盤まで杭を打ったマンションが戸建住宅のように液状化で傾くことは通常はありえないし、震災のような非常時には、個人ですべて対応せざるをえない戸建住宅より、管理のプロが対応するマンションの方が危機管理面で優れているという事実を、市場関係者は住民や顧客にアピールしておくべきだろう。

もちろん、戸建住宅には共同住宅であるマンションにない魅力も少なくなく、どちらを選ぶかは個人の自由である。しかし、マンションであれ戸建住宅であれ、われわれは、長期の住宅ローンを借りて自分の家(マイホーム)を購入することが、大きなリスクをはらんでいることに今回改めて気づかされた。つまり、静岡の浜岡原子力発電所に対する政府からの停止要請の根拠である「マグネチュード8.0程度の東海地震が30年以内に発生する確率が87%」という予測は、原発だけにとどまらず、東海地方や東京圏で生活する人々にとっても等しいリスクといえるからだ。特に、これから35年という長期の住宅ローンを組んでマイホームを購入しようと考えている若い世代にとって、ローン返済期間中のどこかの時点で東海地震が発生する可能性がかなり高いということを意味するだけに、見過ごせる数値ではない。

この震災リスクを回避するためには、地震や津波に対して安全・安心な地域と住宅を選ぶ必要がある。マンションの場合、職場から歩いて帰られる距離で、複数の公共交通によるアクセスがあり、地盤が強固で水害にも強い地域に、免震構造もしくは耐震強度の高い構造で、高い省エネ性能を備え、電源や熱源が複線化され、防災備蓄倉庫を持ち、駐車場は自走式、実績のある売主と管理会社が扱う新築物件の、地上5階程度までの低層階(ただし浸水リスクある地下階などは避ける)を選ぶことである。ただし、これらの条件を全て満たす建物は、東京都心部の高級住宅地の億ションくらいしかなく、富裕層でもない限り現実的ではない。要するに何を優先するかだ。マンションに被害がなければ残債や二重ローンに苦しむリスクもないので、地盤の良さと耐震性の高さは最も重要だろう。一時的にライフラインが途絶えることは覚悟し、復旧が早い地域であればよしとする。郊外でも地盤が強固で都心までの鉄道路線が複数あればよしとする、万一のときに頼れる実家や親戚、友人との絆(セーフティネット)が活かしやすい場所を重視する、などだ。もちろん、住宅取得額に占める住宅ローンの割合は、低ければ低いほど安心だ。

これに対して、住宅を所有せず一生賃貸で暮らす生き方もある。特に、高い経済成長も地価上昇もない”未来の日本”を生きなければならない若い世代にとって、大きな住宅ローンを背負って(高いレバレッジをかけて)、資産価値の上昇が期待できないマイホームに集中投資するのはあまりにもリスクが大きい、という考え方である。ファミリータイプは少ないものの、不動産ファンドブーム以降、大都市には耐震性の高い優良な賃貸マンションが数多く建設された上、東京都心部ではこの10年に大量供給された分譲マンションの一部が賃貸物件として多数流通している。免震構造と井戸・かまどなど震災に備えた賃貸マンションも供給されている。また、必ずしも一生賃貸ではなく、中高年になってある程度の金融資産を持つことができてから、時間をかけて選んだ安全な中古マンションを買うというオプションもある。福島原発事故の余波で東海地震のリスクがクローズアップされた結果、特に、住宅や自家用車の所有にこだわらない生活者が増えている東京圏においては、根強かったマイホーム志向に大きな変化が起こるのではないかと考えている。

松村 徹

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