コラム
2011年05月17日

「取り方」の説明ではなく、「使い方」の提示を ~“税と社会保障の一体的改革”の前に~

  阿部 崇

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5月12日の第6回社会保障制度改革に関する集中検討会議において厚生労働省案が示された。しかしその中身は、いつも通りの厚生労働省の考え方に先の震災に関する記述が加えられたに止まり、いつも通りの「抽象的で具体性に欠ける」や「全体の方向性が見えない」などの評価がある。いずれにせよ、これを受けて示される“税との一体的改革”の全体像の提示が待たれるところである。

さて、消費税率が現行の5%から引き上げられると言われて久しい。その間に行われた国政選挙の争点となり、また、国会審議の他、テレビ・雑誌等の報道でも幾度となく取り上げられてきたが、ここでは、“引き上げは何%が妥当か”や“(社会保障)目的税とすべきか否か”についてではなく、「その先」を考えてみたい。

これまで年金・医療・介護の3つの制度改革の議論では、いずれも少子高齢化を背景とする将来の(または現在の)財源不足について、消費税増税分を安定的な新財源として“アテ”にする議論が抽象的に展開されてきた。しかし、一定の方向付けの期限が迫る中で、最も重要な「使い方」の素案すら示されないのは何故だろうか。確かに、消費税増税の国民的合意がない中で何兆円もの「使い方」を示すことに抵抗感があるとは思うが、「使い(われ)方」が示されない中で国民が是非の判断を行うことはもっと難しい。

今回示された冒頭の「案」の中の医療・介護にかかる部分を見ても、未だに枝葉の項目が並んでいる感がある。給付の重点化や効率化、医療と介護の連携、予防重視などは確かに重要ではある。しかし、“税との一体的改革”の前段として示されるものである以上、新たな恒久的な財源が得られることを意識した踏み込んだ内容が必要だったのではないか。このままでは、せっかくの制度建て直しのチャンス(財源確保)が「診療報酬・介護報酬を何%プラス改定する」ことで数年間を凌ぐだけ、となってしまいかねない。

――― ここで話しを簡単にするために、以下では、いくつかの仮置きをする。
  ◎  引き上げ率は“5%”(消費税率10%)、増税分は“約10兆円”(1%=2兆円とした概算)
  ◎  引き上げ5%のうち、3%分(約6兆円)を“年金・医療・介護の社会保険国庫負担分に充当”(2%分は
      上記以外の子育て支援や就労・低所得者対策等)
  ◎  年金・医療・介護の配分は“現金給付の年金1”:“現物給付の医療・介護1”で折半

上の仮置きで考えたとき、医療と介護に割り当てられる税額は3兆円規模になるが、今回のチャンスを逃せば当分は見込めないこの大規模財源は、今のタイミングでしかできないこと、つまり、「制度を持続可能とする新しい財源構成への転換」のために集中的に投入すべきと考える。具体的には、喫緊の課題である対高齢者給付の増加に鑑み、長寿医療制度(後期高齢者医療制度)と介護保険制度の国庫負担分に増税分を集中的・継続的に充当し、公費負担割合を現行の5割から6割に引き上げる(都道府県・市町村分はそのまま)、といった財源構成の大きな転換のために「使う」、などの“幹”の議論があってもいい※※。(公費負担割合の引き上げにより、過度な保険料増を回避でき、また、国庫負担分に集中的に投入することにより、この部分を抑えるための給付全体の無理な抑制も回避可能となる)

消費税増税の議論にすっかり慣れてしまった負担者(国民)が今求めているのは、「取り方」の上手な説明ではなく、「使い方」がきちんと示されること、であろう。

 仮置き中で年金に振り分ける3兆円は基礎年金の国庫負担率引き上げ(1/3→1/2)分を想定
   ※※医療(長寿医療制度)・介護の国庫負担引き上げに必要な財源は現行水準から約2兆円強と試算

阿部 崇

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