コラム
2011年05月13日

東日本復興とアジア新興国

三尾 幸吉郎

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新興国の経済を研究していると「どの新興国が成長するか」を考えることが多い。人口、生産年齢人口、都市化(農村から都市への人口移動)、研究開発によるイノベーションなど、経済成長の牽引役となる要因を分析、どの新興国が有望かを評価することもある。研究対象は新興国でも、日本人としての眼はついつい日本に向かう。しかし残念なことに、日本は少子化で人口は減少、高齢化で生産年齢人口も減少、既に進展した都市化は限界に近く、国民生活が既に豊かになったのだから仕方ない面もあるが、日本に残された成長余地の少なさを痛感する。

アジア開発銀行の試算によれば、新興国の多いアジアでは、今後10年に約8兆ドル(約650兆円)のインフラ投資が必要になるという。日本の政府や企業はアジア新興国のインフラ投資の需要をビジネスに結び付けようと取り組みを積極化、2008年には経済産業省の主導で「アジアPPP政策研究会」が立ち上がった。PPP(Public Private Partnership)とは、公的インフラ整備にあたって、官と民がパートナーとして取り組む新しい事業形態で、計画段階から民間企業が参画するという点でPFI(Private Finance Initiative)よりも民間企業の役割が大きく、設備は国や地方公共団体が保有して設備建設や運営は民間企業に任せる等の形態がある。開発途上にある新興国がインフラを整備するには、開発先進国が持つ経験や技術知識が必要で、資金調達面での協力も欠かせないことから、計画⇒建設⇒運営に至るプロセス全般に渡って、先進国の官民が一体となった協力を得られるPPP方式の導入が盛んになってきた。そこで、日本でも「チーム日本」を組成、アジア新興国のインフラ整備に協力すると共に、それをビジネスに結び付けようとする取り組みが進んでいる。

アジア新興国のインフラ開発ニーズは、上下水道やゴミ処理施設など都市住環境整備関連、交通、物流、通信、電力供給などインフラ整備、外資系企業を誘致するための工業団地の建設、農業の近代化・集約化などがあるが、下図に示した通り東日本大震災後の日本の復興ニーズと類似点が多い。アジア新興国でPPPを本格化する前に、類似したインフラ需要を抱える東日本復興においてPPPを推進、そこで目覚しい成功例を作ればアピールポイントとなり、アジア新興国のインフラ開発での受託に繋がるかもしれない。日本人同士で意思疎通が容易なことから成功確率は低くないだろう。

今年6月には復興構想会議が提言をまとめる予定であり復興ビジョンが示されるだろう。これを踏まえて、東日本各地では現地住民との議論が深まり、民間企業が参画して開発の技術・経験・資金調達手法や創造的な発想で肉付けして、民間企業は利益を得、住民は豊富な雇用機会を得、日本社会としては復興ビジョンが実現と、日本の伝統的な商業美徳「三方善」が実現する可能性がある。東日本復興のPPPで、このような新しい復興のあり方を世界に提示できれば、アジア新興国への拡張という形で、私が探し続けてきた日本の成長の牽引役が見つかるのかもしれない。
新興国の開発と日本の復興
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