コラム
2011年04月28日

震災復興における製造業の復興のあり方~最優先すべきは匠の技の迅速な復元~

社会研究部 上席研究員   百嶋 徹

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最初に、東日本大震災でお亡くなりになられた方々の御冥福を心からお祈り致します。そして被災されたすべての方々に心からお見舞いを申し上げるとともに、日夜懸命に復旧・復興に御尽力されているすべての方々に心から敬意を表します。

震災復興においては、被災されたすべての方々が一刻も早く安心・安全な生活を取り戻されることが最優先だ。さらに地域の雇用・所得を回復させるためには、産業の復興が欠かせない。ここでは、製造業に絞って産業復興のあり方について考えてみたい。

今回の大震災は、東北地方に集積する中堅・中小を中心とする部品・素材メーカーに甚大な被害をもたらした。被災した産業集積地は、長年培われてきた匠の技を武器に強い国際競争力を有し、主たる需要先である電機・自動車産業のサプライチェーン(供給網)を力強く支えてきた。まさに我が国の製造業にとっての「至宝」だ。大企業を中心に一部で復旧・稼働再開の動きも出てきているが、サプライチェーンの寸断によって末端の加工組立産業である自動車や電機の生産への影響は国内にとどまらず、海外にも拡大している。

「震災復興とは、被災地を単純に震災前の姿に復元させることではなく、全く新しい発想で新生していくことである」との意見が大勢を占めている。防災、居住、交通などの機能を含む街づくり・都市計画の側面ではその通りだろう。産業構造の側面でも、環境・新エネルギーや医療・福祉など新産業への短期間での転換を促すべきとの考え方もあるが、筆者は製造業については必ずしもそう思わない。我が国の至宝であるものづくりの集積地を新しく作り変えるのではなく、匠の技を維持すべく、被災前の姿に可能な限り復元・復旧させることが望ましいと考える。

技術を極めるべく日夜独自技術に磨きを掛けている中小企業には、新しい先端分野の顧客から試作・量産の声が掛かることが多く、需要先の新産業へのシフトは、新産業ありきではなく技術優位性の結果として起こると考えるべきだ。今は外部から人為的に需要構造を転換するよう促すことではなく、廃業・倒産により中小企業の匠の技が消失することを食い止めるために、経営者や従業員の方々がこれまでのように技術を磨き継承できる「場」、すなわち工場・設備を復元・確保することが何よりも急がれる。

アジアの部品・素材メーカーによる商圏奪取や国内の顧客企業による製造拠点の一方的な海外移転を阻止するために、ものづくり集積地の復興には、産官学の英知を結集して迅速に当たることが不可欠だ。行政の役割としては、仮設工場の迅速な建設・無償貸与に加え、被災地の特区指定による設備投資助成・税制優遇(法人税・固定資産税などの免税)・金融支援などものづくり復興・企業立地支援メニューの迅速な策定・施行、防災に配慮した最新鋭の工業団地の建設などが求められる。

東北地方では、これまでいち早く産学官連携のしくみが整備されてきた。例えば、東北経済連合会の提唱により、東北大学総長、宮城県知事、仙台市長から構成される「産学官連携ラウンドテーブル」が2003年より開催され、この枠組みの下で中小・ベンチャー企業の支援や産学連携のマッチング支援が行われてきた。このような先進的な取り組みの継続・深化により、抜本的なイノベーションが連続的に創出されるようになれば、地元企業の成長や域外の有力企業の新たな誘致につながるだろう。

企業は、震災復興・被災企業の支援と供給責任という「社会的ミッション」に高い志を持って誠実に取り組むことが求められる。マスコミ報道によれば、東北地方で工場の被災をほぼ免れた中小企業の経営者が、被災した取引先の従業員に施設を開放して仕事の再開を後押しした事例や、東京在住の中小企業が東北地方の中小企業から要請を受けて、生産の肩代わりを行っている事例があるという。このような中小企業間の連携には胸が熱くなる。大企業の経営者からの、収益より復興支援を優先するとの発言、被災した工場から撤収しないとの発言、安易な海外移転を戒める発言も伝えられており、心強い限りだ。

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社会研究部   上席研究員

百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)

研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、産業立地、地域クラスター、イノベーション、企業不動産(CRE)、環境経営・CSR

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