2011年03月30日

超高齢社会に新たな門戸を開き始めた高等教育機関

  大山 篤之

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■目次

1――はじめに
2――先行研究
3――事例報告
4――考察
5――おわりに

■introduction

少子化により、大学にとっての従来の志願者層であった18 歳人口が今後も減少することが確定的である現代において、もう一つの社会問題とされる高齢化について積極的な取り組みを展開する大学が出現しはじめた。
日本の大学で提供されている成人(シニア層を含む)への教育としては、正規の教育課程の学生としての受け入れ(通信教育部門や放送大学を含む)、科目等履修生や公開授業といった非正規教育課程への学生の受け入れ、そして、公開講座、公開講演会、公開シンポジウム、生涯学習事業などでの受け入れといったものが存在している。また、従来の大学はアカデミックな教育に重点をおいてきたため、職業能力養成にかかわる学位やプログラムの整備が遅れていたものの、最近では、高度の専門性が求められる職業についての大学院レベルでの養成課程(法科大学院や教職大学院などの専門職大学院)、各種専門職の再研修事業といったものが増加しつつあり、結果として、「職業能力養成・再開発機関としての大学の役割が拡大する傾向にある」ことがわかってきた(日本国内「草の根会議」 2010、詳しくは3節参照)。
周知の通り、高齢者を対象とするサービスはさまざまな機関で行われているが、大学も積極的にシニア層を対象とした活動に参画することが考えられよう。本稿では、事例報告から、大学が果たすべき役割やその可能性について考察する。大学がよりシニア層にとって身近なものとなることは、超高齢社会の成熟につながり、778校(平成22年度現在)が林立し、その半数は定員割れという厳しい現状下にある大学にとっても、生き残りのための有効な政策になることが考えられる。
残念ながら、我が国では、高齢者の就学状況に関する統計は整備されていない。ただし、文部科学省が毎年実施する「学校基本調査」では、年齢別の大学院入学者数が開示されており、まずはそれを紹介したい。5年間における全国公私立大学の研究科に入学する50歳以上の大学院生数の推移は、増加傾向にあることが分かる。母数となる高齢者層が増加傾向にあるため、このデータからシニア大学院生の入学者数が増加しているということを断定することは難しい。場合によっては、高齢者層の増加ペースに比して、大学院生数の増加のペースは遅いと考えられなくもない。
しかし、すくなくとも2 千人を超える50歳以上のシニア大学院生(61歳以上にかぎると約400人)が毎年入学している。つまり、規模こそ非常に小さいものの、一定数の高齢者が高等教育機関に在籍していることは事実である。
本文中の図 2~4は、学問分野別にみた50歳以上のシニア大学院生の入学者数の推移を表したものである。
「その他」の項目は別として、それ以外の9学問分野(家政学、教育学、芸術学、工学、社会科学、人文科学、農学、保健学、理学)を俯瞰した場合、社会科学についで保健学、そして教育と人文科学といった、いわゆる文系と称される学問分野への入学が多いことがうかがえる。特に、61歳以上のシニア大学院生になると、社会科学の入学者数が顕著に減少し、また、総じて各学問分野の入学者数も減少する中、人文科学の入学者数は横ばいの状態を維持していることがわかる。
一概に言い切ることはできないが、社会科学がビジネスと関連深い学問である一方、人文科学はそれとは対照的なスタンスをもつ学問であるため、この傾向が生じていると推察される。つまり、純粋に知識を学術的に体得するために高等教育機関に身をおき、学術的知識や見識を深めることで、人生の充実を図ろうとするシニア学生の意図を垣間見ることができる。

大山 篤之

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