コラム
2011年03月30日

震災のクオンツ運用への影響

千田 英明

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毎回のことではあるが、震災やリーマン・ショック等、突発的な事象が発生するとクオンツ運用は機能しなくなってしまう。クオンツ運用では、過去は繰り返す、マーケットは効率的である、一定の周期がある、など様々な前提を置いて運用モデルが開発されているが、その前提条件に突発的な事象は織り込まれていないからである。

クオンツ運用で震災等の突発的な事象を予測することはできないのか。それは、非常にむずかしい話である。仮に過去に突発的な事象が何度か発生していて、そういったデータがあったとしても、そのデータは異常値として取り除いて考えるべきである。そういった突発的な事象のデータを含めると、他の突発的な事象が発生していない平常期の運用精度が大幅に悪化するからである。一方で、突発的な事象のデータを含めることにより、そのリスクを多少認識することは可能であるが、突発的な事象が発生する「時期」を予測することはできず、結局のところリスクを回避できないのである。突発的な事象が発生する時期を予測するためには、それに一定の周期があるか、あるいはそれが発生する前に何らかの兆候が発生している必要があるが、多くの突発的な事象はどちらもないことが多い。

他方でクオンツ運用には、人の判断を排除し機械的に運用を実行できるという面で大きなメリットがあると考えられる。人は常識的な判断があるため、常に直近の環境と比較してしまい、それと異なる状況になった場合はまた元の環境に戻るのではないかと考えがちである。つまり、マーケットが下落した場合、もうこれ以上は下がらないだろうと考えてしまうのである。しかし、マーケットは常に変化しており、更に下落することは十分に考えられる。こうした場合でも、クオンツ運用は過去の状況と照らし合わせて計算し、その状況が想定の範囲内であれば、適切に対応することが可能である。

このように、平常時は有効に機能するクオンツ運用でも、突発的な事象が発生した場合は機能しなくなってしまう。もちろん、人の判断で運用するジャッジメンタル運用でも、突発的な事象を予測し、対策をうつことは不可能である。今回の震災の教訓は、運用スタイルは何であれ金融商品に投資する際は、このような突発的に発生するリスクを常に意識しながら運用する必要があるということである。

現在の個人金融資産1400兆円の内、50%以上が現預金に、約30%が生命保険や年金といった安全資産に置かれている。一方、株式や投資信託といったリスクの高い資産で運用されている資金は、わずか10%程度である。今後、資産を更に増やすためには、現預金を株式や投資信託に移行して運用することが必要と考えられるが、その際には突発的な事象が発生した場合のリスクも含めて慎重に検討することが必要であろう。

最後に、今回の東北地方太平洋沖地震で被害にあわれた方々の一日も早い回復を望むとともに、犠牲になられた方々とそのご遺族の皆様に対し、深くお悔やみを申し上げます。
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千田 英明

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