コラム
2011年03月09日

求められる若年層のすねかじり

  桑畠 滋

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「いつまで親のすねをかじっても許されると思いますか?」こんな質問を投げかけられたら20代、30代の若年層は何と答えるだろう?「社会人になるまで」という回答が最も多いのではないだろうか。筆者も実際、新入社員になった際、「これからは沢山稼いで親孝行するぞ!!」と意気込んでいたことを思い出す。

若年層がこの意識を持つことは非常に大切であると思うが、皆がこの意識を持ち行動することは経済全体にマイナスの影響を与える恐れがある。終身雇用制の終焉、デフレの継続に加え、今後は人口減少も避けられない中、給料が将来安定的に増加していくと見込む若年層は皆無に等しい。加えて追い討ちをかけるように厚生年金保険料などの社会保険料の増加が続いていく。可処分所得が思うように増えない中、将来は家族を持ち住宅を取得したいと願う若年層は貯蓄を優先し現在の消費を抑制せざるを得ない。総務省が実施している家計調査(二人以上の勤労者世帯)によると、34歳以下世帯の消費額はこの10年の間に10%近く減少している。消費が増えなければ、企業の売上は減少し巡り巡って給料は減少する。給料が減少すればますます消費に回すお金が減少するなど、負の連鎖に陥っていく。

つまり経済全体で見れば、今後はこの負の連鎖を断ち切るために、若年層にお金を回す仕組みを構築していくことが求められている。その際、問題となるのは誰が若年層にお金を回すのかということである。若年層の親世代にあたる50代から60代前半については、年金不安の高まり、長寿化の進展などを背景として、自分達の老後生活に必要な資産を確保することに精一杯でもはや子どもに回す余裕などない。では、それより上の高齢層はどうか?金融広報中央委員会が実施している「家計の金融行動に関する世論調査」によると、70歳以上の高齢層は世帯平均1700万円もの金融資産を保有している。総務省公表の10月1日推計人口によれば、70歳以上の平均年齢が78歳で、厚生労働省公表の簡易生命表によると78歳の平均余命が男性10歳、女性13歳であることから、78歳の高齢者が毎年100万円を取り崩し90歳まで生きた場合でも500万円余ることになる。高齢者は金融資産を持つ人と持たない人の格差が大きいため一括にはできないが、少なくとも70歳以上の金融資産の中には有効活用されず若年層へ回すことが可能な資産が眠ったままとなっていることだけは確かである。つまり、今後はこの高齢層の資産を若年層に回す仕組みを構築することが必要なのである。

こういった認識の下、政府は高齢者から若年者への生前贈与を積極的に促進し始めている。2009年には2年間の期限を設け、直系尊属(実父母、実祖父母)から受けた500万円までの住宅取得資金の贈与について非課税としたが、2010年度税制改正では、それを拡充し2010年は1500万円、2011年は1000万円に引き上げた。また、2011年度税制改正では、相続税の税率構造を強化するのとは対照的に贈与税の税率構造を緩和したことに加え、贈与時に軽減された贈与税を仮納付し相続時に相続税で精算する相続時精算課税制度(非課税枠2500万円)において、従来推定相続人(直系卑属のうち、最も先順位の相続権のある人)に限定されていた受贈者の範囲に20歳以上の孫を追加している。ただし、高齢者から若年層へ生前贈与を加速させるという意味からすればやや力強さに欠ける感は否めない。(詳細:基礎研REPORT2011年3月号「相続税・贈与税の見直しは若年世代への資産移転を加速させるか?」)

ここは思い切って相続税の更なる強化に加え、35歳未満への贈与を非課税としてみてはどうだろうか?そうすれば、相続税の対象となることが懸念される高齢層は確実に孫への贈与を進めるだろう。若年層での格差が拡大する、税収が更に減少するなどといった懸念はあるが、何よりも優先すべきは若年層の消費を拡大させ経済全体のパイを広げることである。経済全体のためにも若年層は親ではなく祖父母のすねをかじることが求められているのである。

桑畠 滋

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