2011年03月04日

J-REITの合併効果検証とガバナンスの課題

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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■見出し

1. 増加するJ-REITの合併
2. J-REITの合併実現に向けた環境整備
3. J-REITの合併効果の検証

■introduction

今年、創設から節目の10年が経過するJ-REIT(不動産投資信託)市場では、REIT同士の合併が増加して市場再編が進んでいる。これは、平成21年度税制改正などにより、合併に向けた実務上の障壁が解消されたためで、2009年8月に住宅REIT2社が初の合併を発表以来、計7件の合併が発表され、2010年12月までに全て完了している。
この間、合併比率の決定や投資主総会での承認といった合併成立までのプロセスが明確となり、合併に伴う資産規模の拡大、「負ののれん発生益(以下、負ののれん)」を活用した分配金の安定化や物件入替による収益力強化など、合併効果に対する投資家評価は高い。7件の合併成立により、上場銘柄数は42社から35社へ減少したものの、市場時価総額は2009年2月の2.3兆円を底に3.7兆円まで回復、東証REIT指数は最安値から60%上昇し、REIT各社は公募増資や投資法人債発行により市場から資金を調達し物件取得を再開している。リーマン・ショック以降、借入金のリファイナンスに窮するREITが出現するなど機能不全状態に陥り、のちに不動産サイクルの大きな落ち込みを経験したJ-REIT市場は、官民一体の制度強化を支えに苦難を克服し、合併などによる市場再編を経て、新たな成長ステージを迎えることになりそうだ。
一方、J-REITは、「投資信託及び投資法人に関する法律(以下、投信法)」を根拠法に、導管性要件を満たすことで法人税が免除された「非課税の不動産賃貸事業」を行う器であるため、会社法がベースの株式会社と異なり、J-REIT特有のガバナンスや資金調達手段の制限などが存在する。しかし、株式市場と同様に、投資口交換(株式市場では株式交換に相当)による合併がいつでも可能となったことで、市場価格を優先し保有不動産の評価額と比べて不利な比率で合併されるリスクや既存投資主への説明責任など、検討すべき課題も明らかになってきた。
以下では、合併実現に向けた環境整備の経緯やJ-REIT の合併効果を確認したうえで、今後の投資主ガバナンスのあり方や課題について述べたい。

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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