コラム
2011年02月28日

実は増えていた?日本の人口

櫨(はじ) 浩一

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1.実は増えていた?日本の人口

2010年10月に行われた国勢調査の人口速報集計結果が発表され、日本の人口は1億2805万6千人で、2005年の1億2776万8千人から、28万8千人の増加となった。これまで日本の人口は2005年頃から減少傾向に転じ、人口減少社会に突入したとされてきたので、この結果は意外であった。もっとも、人口が増えたという数字は2005年から2010年の5年間の差を見たものなので、前半の2、3年は毎年増加していたかも知れないが、後半には人口は減少していたものと考えられ、日本が人口減少局面に突入しているということは間違いないだろう。

2.食い違う関連統計の動き

この5年間に日本の人口が増えた理由を考えると、ナゾが多い。厚生労働省は、人口動態統計として毎年の日本の出生者と死亡者の数を発表しており、これによると2005年頃から死亡者数が出生者数を上回っており、最近の日本の人口は自然減となっている。海外から日本に移り住む人が多かったということも原因として考えられるが、法務省が発表している出入国管理統計で、日本への入国者数と出国者数の差をみると、こちらも2008年以降は出国者数が入国者数を上回っている。人口動態統計は日本人だけが対象で外国国籍の出生者は含まれていないし、出入国者数は短期間の旅行者が圧倒的に多いので、国勢調査が対象としている「日本に住んでいる人(外国国籍も含む)」を調べているものではない。しかし、こうした調査対象の違いを考慮しても、この5年間で日本の人口が30万人近くも増えていた原因を説明するのは難しい。

実は、前回2005年に行われた国勢調査では、調査票の未回収が4.4%もあったそうだ。郵送やインターネットでの回答を取り入れるなど、今回は調査方法を改善したことが人口増加という結果に影響しているという。つまり、前回調査の人口が実態よりも少なかった一方、今回は調査の精度が向上したので人口が増えて見えたという要因が大きい可能性が高いのだ。

3.劣化する日本の統計

国勢調査の結果を受けて、衆議院、参議院の一票の格差問題に注目が集まっている。しかし、その議論の基礎になる統計を正確に作ることは、あまり注目されない。1980年台の英国では統計にかけるお金と人手を削減し過ぎたため、政府が発表する統計数字が信頼できなくなってしまったという。ギリシャの財政危機は、政府が発表していた財政赤字の統計数値が間違っていたことも原因だ。

日本の人口のような基本的な数字すら正確に分からないのかと思われる方も多いだろう。しかし、日本でも統計に関連した予算や人員は削減が続いており国勢調査に限らず日本の各種統計は様々な問題に直面している。今回の国勢調査の結果は、人口という分かりやすい数字なので、たまたまアラが誰の眼にも明らかに見えるだけなのだ。

無駄を削るための工夫や努力は重要だが、現状を正確に把握するために必要な人員や予算まで削ってしまったのでは、土台のしっかりしない建物を建設するようなものだ。今となっては昔のことを知るすべはないので、本当は日本の人口減少が一体いつ始まったのかは永久にナゾとなるだろう。
自然増減と出入国者数の推移
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