コラム
2011年02月28日

「無縁社会」における握手の効用~孤立死調査の中で感じた地域での関わりの重要性~

  廣渡 健司

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今年に入り、一人暮らし高齢者が自宅で誰にも看取られずに死亡して発見までに時間を要してしまう孤立死(孤独死)問題や、医療や介護等の公的なサービスを拒否し、地域から孤立して非衛生な状態にあるセルフネグレクトといった問題の調査研究のため、全国各地を回り、地域の中で地道に取り組まれている方々のお話を伺っている。
   私にとって初めての現地調査となるある団地でのこと。対応いただいた70代の町内会長さんのお話を聞いて、データや資料を見るだけでは本当に現場の状況はわからないものだと衝撃を受け、思わず、別れ際の挨拶のとき握手を求めた。その時の町内会長さんの顔が忘れられない。一瞬の驚きと戸惑いの後に、自分が言ったことがちゃんと伝わったんだという安心感のこもった笑顔。頑張れよという激励もいただいた。
   「握手は西洋人が出会った時にお互いに武器を持っていないと警戒感を解くための儀礼的行為」と聞いたような気がするのだが、この別れ際の握手で、冷静に考えればもうお会いすることのないかもしれない町内会長さんとの関係が、一期一会、心の中で一段強い関係に変わった気がした。

その後も、高齢者の孤立防止や支援活動に、様々な立場で携わっている多くの方々のお話を伺ってきたが、そこには、厳しい現実が横たわっている。
   ある北国の市営住宅では、口座引き去りの預金が尽きてライフラインが止まったことで異変に気づき、発見した時には既に死後かなりの日数が経過していたというお話をうかがった。
   西日本のある城下町では、公的サービスを頑なに拒否する高齢者を、行政や地域住民の方々が多くの時間と労力をかけて見守られている実態もうかがった。
   孤立死やセルフネグレクトは高齢者だけの問題ではなく、30-40代の人にも同様の問題は存在する、高齢者が問題事例であっても若いころからの生活の中で蓄積したものが、たまたま今現実に現れているのではないかと思う、そんなお話をうかがうことも多い。
   「無縁社会」と言うけれど、そもそも戦後半世紀をかけて、旧来の煩わしい人間関係から開放され、他人とあまり関わらなくても生きていける便利で気軽な社会を皆が作ってきたのではないか。ワンルームマンション、コンビニのおかげで、人との接点がなく、バランスが壊れた生活を続けるうちに、完全に周囲から孤立し、本来ある生命力が衰えているのではないか。そんな話もうかがった。
   そうならないために何が必要か。言い方は異なるが、皆さんが口にされるのが、「人との関わり」。人との接点があることで、自分の生活のズレを修正し、生命力を維持していく。挨拶やたわいもない会話の継続が生命力につながる。だからそれができる女性は長生きできるし、孤立の問題は男性に多い。この指摘には苦笑しながらも、うなずかれる方も多いのではないだろうか。

人との関係、人とのつながりを実感することが、活力につながる。改めて、あの町内会長さんのお顔と握手した感覚が思い出される。あるタレントの握手会で、目と目を合わせて握手した感動を語る私の身近なアラフォー女性の姿を見て、昔、選挙プランナーの方が「握手への気持ちの込め方が選挙結果に大きく影響する」と分析されていたことも思い出した。AKB48の握手券がついたCDが売上ランキングの上位になったという話もある。握手には人間関係づくりに大きな心理的効果があるようだ。
   きっと、周囲の何らかの関わりのある人との間で握手をする機会があれば、少なくともネット上での「ツナガリ」よりも、手の温もりを通して、胸の中に心地よい安心感が伝わるのではないだろうか。

仕事を離れた生活地域での人間関係づくり。自分を振り返れば、仕事を言い訳にして、いろんな機会を失ってきたという反省しかない。今後、地域での人間関係の中で、挨拶やたわいもない会話に加えて、意識して握手をしてみようと思っている。相手が女性の場合には微妙な場合もあろうし、物事、そんなに簡単なものではないとは思うが、生活を支える地域での関係づくりに少しでも効果があるのではと密かに期待しつつ、自らを実験台としてみたい。

廣渡 健司

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